苛めを受けていた人の話


中学時代は1年生の頃だけ楽しかった。それ以降は卒業までずっと最低最悪だった。2年に上がってクラス替えがあってすぐ、同じクラスになった男にいじめのターゲットにされたからだ。

物を隠され、教科書を汚され、キモイと罵られ、無視され、ばい菌のように扱われた。
いじめは毎日気まぐれに様相を変える。
アイツは猿山の大将のようで、アイツが何か言うとみんなそれに従った。
野球だかサッカーだかバスケだかの部活に所属していたアイツは、先輩に可愛がられ後輩に慕われ同学年には一目置かれた存在だった。
俺のような運動より読書のほうが好きなタイプの男子や女子の中にはアイツとその友人達を怖がって敬遠してる人もいて、俺も、その一人だった。
大人しい人間達の中からたまたまアイツらの暇潰しのターゲットに選ばれたのが、俺だったのだ。

「きったね。今俺の机に遠川の制服当たったんだけど」
「アルコールで消毒したら?」
「めんどくせーからお前の机と交換してよ」
「は?やだし」

ゲラゲラと笑い合う男と男。そいつらと同じグループの、スカートの短い女子達も一緒になって笑っている。
輪の中心にはアイツがいた。
アイツはにやにやしながら、そいつらのやり取りを見ていた。

クラスの中にはこいつらのことを好ましく思っていない人も何人かはいたが、誰も声を掛けたり手を差し伸べてはくれなかった。
けれど、仕方がない。
助ければ次は自分がターゲットになってしまうのだから。
平然といじめを繰り返す人殺しのような奴等、見て見ぬふりをするクラスメイト、何も抵抗できない自分。
俺は諦めていた。この地獄を。
卒業までの辛抱だと、そう思いながら。

(…………なのに)

――"篠田凌也"

中学を卒業して、進学した先の高校にもアイツの姿はあった。
俺はこの事実を入学式の日のクラス発表で知った。
上から順に視線を下ろしていき、自分の名前より先に視界に飛び込んできたのだ。忌々しいその名前が。地獄の代名詞である、その言葉が。

教室へ行くとアイツはもう何人かの男女とグループを作っていた。
視線を感じ、囁き声が聞こえてくる。
地獄は終わらないのだと悟った。





あるとき、季節外れの転校生がやって来た。
高校を転入してくるというだけでも珍しいのに、その転校生は驚くほど顔が良かったから余計に目立った。

そしてこの転校生がやって来てから、俺の生活もガラリと様相を変えるようになる。


「県内の別の高校から転校してきました。守谷透と言います」

自己紹介を終えた守谷は俺の隣の席に座った。空いてる席がそこしか無かったからだ。俺の隣の席が空いていたのも、いじめグループからの異常な嫌がらせの延長線だったような気がする。守谷が席についたとき、俺は初めて守谷の顔を見た。その頃の俺は毎日を地獄をなんでもないようにやり過ごすのにいっぱいで転校生なんて気に留めている余裕がなかったから、自己紹介の言葉はほとんど覚えていない。

「はじめまして。さっきも自己紹介したけど、守谷透って言います。よろしくね」

人懐こい笑みを浮かべられ、俺は初めその言葉が俺に向けられたものだと気付かなかった。ワンテンポ遅れて返事をしてそれなりの挨拶を返す。

「あぁ、うん、よろしく」
「名前なんて言うの?」
「山口です」
「山口くんかー。俺、この学校のこと色々聞いちゃうかも。しつこくて迷惑だったら迷惑って言ってね」

困ったように笑う守谷。家族以外の人間とこんなに話すのは酷く久しぶりのことで、そんなふうに笑う守谷に俺は、いや、とか、そんな、とかぼんやりとした返事をしただけだった。

守谷は驚いたことに俺をよく頼った。教室の場所が分からない、授業が進んでいて少しついていけない、帰りに寄れるファミレスが知りたい、お昼を一緒に食べる相手がいない(そんなのは俺だってそうだった)、その他諸々。
ある日、教科書を見せてくれと頼まれた。俺じゃない方の隣の席の奴に頼めばいいのに、何故か守谷は俺ばかりアテにする。教科書は一学期の終わり頃にトイレに捨てられて、

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