03
藤川くんの連絡先を教えてもいいか聞いてみようか、と持ちかけたら「別にいいよ」と言われた。
藤川くんの誕生日は夏休み中だと教えたら「じゃあ古佐田くんは?」と俺の誕生日を聞かれた。
バイト先についてくると言うので今日は藤川くんとシフト被ってないよと伝えると「そのほうがいい」と笑みを返された。
……わからない。庭瀬には庭瀬の攻め方があるのだろうか。俺、余計なことしないほうがいいのかな。
「古佐田ー。あんたっていつから庭瀬くんと仲良いの?」
「は?」
昼休みに何をするでもなく優馬と浩太とだべっているとクラスの女子に話しかけられた。珍しく声をかけられたと思ったら話題は庭瀬か。
「2年に上がってすぐくらいからだけど……なんで?」
「庭瀬くんってかっこいいじゃん!オーラもあって芸能人みたいでさ〜」
「古佐田みたいな普通の男子がどうやって仲良くなったのかなーって思って」
「悪かったな、ふつーで。委員会が一緒で話すようになったんだよ」
「あははっ、ごめん。そっかぁ委員会かー」
庭瀬ってもしかして一年の頃からこんなふうに騒がれてたのかな。全然知らなかった。まぁでもサッカーにしか興味のない浩太も知らなかっただろうし、噂話に無頓着なタイプならそんなもんか。
「あーあ、あたしが美化委員やれば良かった〜」
「いやいや現金かよ」
「まあねー。あ、ちょっとー古佐田。袖のボタン取れそうだよ?」
控えめなネイルで飾られた繊細そうな指が、俺のブレザーの袖を持ち上げる。たしかに糸が解れてボタンが落ちそうになっていた。えーどうしよう。俺、裁縫できないよ。
「直してあげよっか?」
「えっまじで!」
「だって古佐田、子どもみたいな顔でこっち見てくるんだもーん。可哀想で可愛いっていうか」
「ええなんだよそれ嬉しくな、」
「――古佐田くん」
声と同時に手首を掴まれる。俺のブレザーの裾を軽くにぎっていた女子は、びっくりしてその手を離した。
「俺が直すよ、そのボタン」
「……に、庭瀬」
え、おまえ、裁縫まで出来んのかよ。
完璧すぎんだろ……。
「俺、古佐田くんに話があるから借りてくね」
「おわっ、ちょ」
強引かよ!女子はせっかくの庭瀬に名残惜しそうな声をあげて、優馬と浩太は興味なさそうにひらひらと手を振ってくる。俺の友人は相変わらず俺のことが非常にどうでもよさそうだ。
庭瀬に連れられて屋上まで来た。ここに来るまでずっと黙りこくって無表情で、こんな庭瀬は見たことがない。
「庭瀬!なんだよお前、怒ってんの……?」
「……怒ってないよ」
「じゃあ何か言えよ……。ずっと黙りっぱでこえーし。あと手!離せ」
掴まれていた手首、赤くはなってないけどなんとなくちょっとさする。
「ごめん。痛かったよね?」
「あっいや別に……男だしアレくらいじゃそんな」
ここまで引っ張って来たのは庭瀬なのに、俺の手首を心配して俺より傷付いた顔をする。元気づけないと、と俺のほうがフォローに回る。平気平気と庭瀬を慰めていると、庭瀬が両手で俺の手首を包んだ。
「ごめん……八つ当たりした。かっこわるいね、俺」
いたわるように、優しく触れられる。
なんだろう、これ。こんなふうにされると、大事にされてるような錯覚に陥りそうになる。
……変な感じ。くすぐったい。
心臓もなんか、早いような。頬も、熱い気がする。
「こうやって…………」
「ん?」
「こうやって優しくすれば……俺が好きだった人もだれか一人くらいは……俺をいいなって思ってくれたのかな」
最後に選んだあの人より。
俺のほうがもっと、いいなって。
「あー……ちょっとまって、情報過多……。いま古佐田くんは俺にこうされて、『いいな』って思ったの?」
「うん。俺が女子だったら今ので絶対好きになってた」
「……女子だったら、ね」
「参考にしたいと思うくらいにはすごい良かったよ」
「しなくていいよ。てかしちゃダメ」
語尾は強めだけど、沈黙してたさっきの庭瀬とは違って全然こわくない。てか真似したらダメなのかよ。意外とケチ。
「で、あんな顔して、過去に好きだった人の話をするんだ」
「?あんなってのはよく分かんないけど……」
俺が俺なりに恋をした女の子たち、藤川くん、もしかして俺に振り向いてくれたのかなって、そんなことを考えたのは確かだ。
庭瀬はなんとも言えないような顔をしていた。いつもマイペースにニコニコしてるだけの庭瀬しか知らないから、今日みたいな色んな顔をする庭瀬は新鮮で貴重な感じがする。
「はー。まぁいいや。今はそれで」
「はあ?自己完結するなよ。俺にも分かるように話せって」
「だーめ。少なくとも古佐田くんの中にまだ藤川くんがあるうちは絶対言わない」
ようやく庭瀬の手が俺の手首から離れる。藤川くん絡みのことなら遠慮しなくていいのに。俺、諦めるって言ったのになぁ。
(ていうか最近俺、ちゃんと藤川くんを諦められてる気がするんだよな)
気持ちに区切りがついてきている気がする。告白もできずに終わった片想いだったから、いつもより引きずっていた。でも庭瀬がいたから、落ち込みすぎずにいられたし、ちゃんと諦めようって強い気持ちも持てた。
「そーいや庭瀬。俺に話って?」
「あ、放課後デートいつする?って思って」
「あ……?あー、え、あれギャグじゃなかったの?」
「え!ギャグだと思ってたの?ショック」
「いやぁだってさあ」
俺とわざわざデートする意味、ある?俺は藤川くんでもないし女子でもない。モテる男の頭の中って、よくわかんないな。
「行きたくない?」
「そういうわけじゃないけど」
「じゃあ古佐田くんがバイト休みの日にどっか行こうね。やりたいこととか食べたいものある?俺、場所リサーチしておくよ」
楽しそうに、あれはどう?これはどう?と候補を上げてくる。何やら知らないがご機嫌そうでなにより。知らぬ間に俺の口元も緩んでいた。庭瀬の笑顔は見てるこっちまで笑顔にさせる何かがある。
「ばか、俺の好みばっかでどうすんだよ。デートだったら庭瀬も楽しくなきゃだめだろ。庭瀬が行きたいとこは?」
訊ねたところでチャイムが鳴った。
「あー昼休み終わった。戻ろ庭瀬」
「……そーだね」
数歩あるいて立ち止まる。なぜかまだ立ち尽くしてる庭瀬に、振り返って声を掛けた。
「あのさー、俺も行きたいところ考えとくから、庭瀬もちゃんと考えろよー。庭瀬の行きたいところの場所は俺がリサーチするからさ」
二人で放課後遊ぶなんてよくやってることだけど、デートって名前を付けるだけで全然違うものになる気がする。庭瀬もそう言ってたな。たしかにその通りだ、と思いながら俺は一足先に屋上を出た。
「はー……、ずりーよ古佐田くん。あんなかわいく笑われたら、もっと好きになんじゃん」
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