いつも以上に人の多い校内をゆっくりと歩く。テトイ体育祭。学年関係なくクラス対抗で様々な競技を一日に渡ってこなし、総合得点の多かった方が勝ちというイベントだ。参加は自由。受付に行ってどの競技に出るといえば参加できるらしい。ひとまず授業は休みだから朝はたっぷり寝坊した。気持ちよく眠ったおかげか体力が有り余っていた。
「おい、デルタ」
「なんだよブス」
俺の呼びかけに答えたのは口の悪いアイボ、デルタだ。こいつとの出会いは割愛するがまぁそれなりになんとかうまくやっている。こいつの本体は機械のはずなのだが、ジンコウチノーとかいうやつで生き物みたいに会話ができるらしい。
「体育祭のスケジュール出してくれ」
「……」
「おい!」
デルタは無言を貫いている。デルタの性格はめちゃくちゃ捻くれている。何かしらのデータを利用しようとしてもデルタの気分次第では教えてくれないことがある。俺の横をふわふわと浮いているデルタの、羽根を引っ張った。唸るような声をあげたのち、ようやくデルタは口を開く。
「ミケから電話だっつーの!」
「あ? ミケ? ……出る」
憎たらしい声が途切れ、今度はデルタの口が開く。奥からはまるでそこに彼女がいるかのようにミケの声が鮮明に聞こえてきた。
『あ、くおりーん!』
「おー。どうしたミケ」
『面白そうなもの見つけたから、一緒にこの後の飛行レース応援しよぉ』
「面白そうなもの?」
『とりあえず飛行レースのスタート地点で待ってるよぉ。じゃねー』
「あ? おい!」
ため息が口から漏れる。俺の周りはこんなのばっかだ。ひとまずおとなしいデルタに飛行レースのスタート地点までの道のりを案内させる。少し早足になりながらデルタに着いていった。
*
「くおりんおそーい」
「人多すぎなんだっつーの……。なんか無駄に疲れたわ」
デルタは案外素直に俺をスタート地点まで案内し、疲れたのかだんまりを決め込んでいる。スタート地点に近づけば近づくほど、レースに参加するものやその応援をするもの、冷やかしに来るものなどでごった返していた。イライラしながらその間をすり抜け、ようやくミケの姿を見つけた。
「で? 面白いものってなんだよ」
「これー!」
「……? 風船?」
ミケが差し出したのは様々な色をした風船だった。薄い表面の先には何か……紙吹雪のようなものが透けて見える。
「これでぇ、飛行レースを応援するのぉ!」
「応援ったってこれ……」
「あ、だめ!」
ゴム部分に触れた瞬間、それは大きな音を立てて破裂した。油断していたせいか俺を含めた周囲の生徒がビクッと体を震わせた。心臓が一瞬動きを止める。バクバクとうるさくなる心臓を抑え、飛び散った紙吹雪を一身に浴びた。
「ックリした……、なんだよこれ!?」
「説明してやるよバカ共!」
「ウルセェなデルタ。喋るなら黙って喋れ」
「バカみたいな発言だなブス。バカみたいじゃなくてバカか! ガハハハ」
唐突に喋り出したデルタを気にもとめず自由なミケが飛び散った風船や紙吹雪を見てあーあ、と残念そうな声を出している。
「これはハッピーバルーンだバカめ! レース妨害用に商業棟で期間限定発売されてるのだ!」
「……レース妨害用?」
ガハハハと笑っているデルタをよそに、その口から発せられた言葉に首をかしげる。ミケは応援すると言っていたが、妨害とはどういうことだろうか……?
「あー! くおりん、もうレース始まっちゃうよ! 早くそうと〜応援しに行かないと〜!」
「あ、おいバカ待て! ……総統?」
風船を持って走り出したミケの後ろを生徒にぶつかりながらも追っていく。不思議と風船の糸は伸びて人にぶつからない高さまで上がっている。ミケは好き勝手いろんな生徒の顔を覗き込みながらその『総統』の姿を探しているようだった。
「見つけたー! そうと〜!」
「ミケ、待てって……あ? なんだヴィンスかよ」
そこにはミケに対しては少し嬉しそうな、しかし俺を見た瞬間あからさまに嫌そうな顔をしたヴィンスが立っていた。どうやら次はヴィンスを含むグループのスタートらしい。
「ミケ、お前も飛行レースに出るんじゃないのか?」
「うん、出るよぉ!」
「なんだ、お前も出るのか」
あっさりとミケが答え、少し驚いた。
「この後ー。その前にそうと〜応援しようと思って!」
「応援って……もしかして、それで、か?」
どうやらヴィンスもハッピーバルーンが妨害用アイテムであることは知っているらしい。ミケはあっけらかんとした表情でうん、と頷いた。俺は必死でポーカーフェイスを装い、下を向いた。
「ちょっと、考え直せミケ!」
「第Xグループ、スタート地点に並んでください。十秒後にスタートします」
「ほらヴィンスサマ、はやく行かねーと」
「おま、わかってるだろお!」
ギャーギャー騒ぎながら商業棟屋上のヘリに立つヴィンスの姿を見ていると笑いをこらえるのも限界になってきた。何もわかっていないようなミケの、用意したハッピーバルーンを手に構えた。
「ミケ、スタートと同時にヴィンスに届けるぞ」
「うん! がんばろぉー!」
じわじわとこみ上げる笑いとともにスタートの音が鳴った。半泣きのヴィンスの背中を、俺とミケのハッピーバルーンが追いかけて行った。
ミケち(@jJSQNOnDxELEzOK)
ヴィンス様(@inuinu_1111)