応援ゾーン。教師たちが涼しげな顔でテントの下にいながら、生徒たちは様々なパフォーマンスを繰り返し教師に点数をつけてもらう。一つ一つの配点は決して高くないが、勝ったチームにはさらに加点が与えられるという立派な競技だ。
生徒たち一人一人によってアレンジされた衣装は華やかで眼を見張るものがある。そこら中に普段から見ない雰囲気の同級生や先輩を見つけ、すげえな、なんて呟いていた。
生徒でごった返す応援ゾーンを練り歩く。何も俺が応援用の服を着て点数を稼ごうなんていう目的でここにきているわけではない。おそらくここにいるであろうある人物を探していた。
「あ! おい、ミケ!」
ようやく見つけたミケもまた、制服からアレンジされた洋服に着替え嬉々として周囲の生徒と並んでいた。全身真っ白に包まれたミケのスカートは腿の上あたりでパニエのように広がり、独特なシルエットを描いていた。上半身は袖のないレオタードのような衣装で、白のタイツを履き足首に青のリボンと青い靴を履いていた。
「くおりん! どぉ、どぉ?」
その場でくるくるとミケが回る度、背中の羽がふわふわと揺れる。よく見ればその服は背中部分の露出が多く、今この場にジャケットを着てきていないのを後悔した。
「似合ってる」
「本当ぉ!?」
えへへ、と嬉しそうに笑うのはいいのだが、どうにもいささか露出が気になる。周りの生徒たちも自分たちのことに忙しいからあまり見ていないだろうが、ナンパ野郎に出会ったりなんかしたらどうしようか、と考えあぐねいていた。
「くおりんは何も着ないの?」
「あ? ああ。俺は別にいい……っておい!」
「向こうの方にねぇ、貸衣装あるからくおりんも着よぉ!」
問答無用でミケに腕を引かれ、渋々ついていった。
*
これはやだ、あれがいい、あれもやだ、これがいい、とひたすらミケと押し問答しているうちに圧倒今に時間が過ぎていった。
ミケはフリフリの衣装を着せたがっていたが、ガラでもないので断固拒否する。強いて言うのなら男用でもよかったのだが、ミケは
「くおりんは女の子なんだから女の子のお洋服着るのぉ!」
といって許してくれなかった。探していくうちに、どうにも大日ノ本帝国出身の奴らがよく着ているような衣装を見つけ、あまり気が進まなかったがミケの激推しに仕方なく着ている。
その衣装は黒と赤……どちらかというと朱色を中心とした衣装だった。黒の学ランのような上着は袖部分がダボっとしていてさらに袖口はしまっている。太ももの半分が出るほどの短い朱色のスカートは、近くのスタッフに声をかけてせめて短パンに変えてもらった。ふんわりとスカートのシルエットを残しながらも内側はしっかりと短パンになっている。
上部分にスカートと同じリボンのついたニーハイソックスを履き、さらにその上から白い足袋を履く。こんな高さで本当に歩けるのか? と思うほどに分厚い下駄の鼻緒に足の指を通すと、最後に何処かの国のどこかの時代にあるような学生帽をキュ、と被った。今日くらいは髪の毛を下ろして耳の下で二つに結んだ。
あらかじめジャケットにつけられていた朱色のリボンが歩くたびに揺れて少しきになる。
更衣室を出てミケの姿を探すと、先に俺を見つけていたのかミケはぽかんとこちらを見ていた。
「……なんか言えよ」
それなりに恥ずかしいんだぞ、とぼやくと一拍おいてミケの瞳がキラキラと輝き始める。
「おいおいどうした」
「く、くおりんすっっっっっごい可愛いねぇ!」
ミケがあらかじめ連れていたアイボに写真! と叫び、俺の腕をがっちりホールドして横に並ぶ。一度軽快な音が響き、目の前にフラッシュが焚かれた。アイボの口からやがて出てきたポラロイド写真を見てふおおお、とミケが叫んでいる。
「もう満足か?」
「もっと着よぉ! ミケも着替えるからぁ!」
「いいっつの、俺は。つーか最初の目的こんなことじゃなかったんだよ」
着替える前の制服のポケットからあらかじめ移動させておいた”当初の目的”を取り出した。ミケは不思議そうに俺の手元を見ている。
「腕だせ」
はい、とミケの差し出された細い腕にそれを巻く。
ゴールドテープ。体育祭開催中の現在は赤と青のラインがそれぞれ入っているが、結果が出た際に勝利したクラスの色に変化する、という魔法アイテムだ。体育祭の参加者には任意で受付が配布している。
生徒によっては賭け事や、何かのきっかけに使うものが多いらしいが、俺はなんとなく面白そうだと思って持ってきていた。
「おぉ……! これは噂のゴールドテープ……!」
「なんか賭けしようぜ。負けた方が勝った方の言うこと聞くのな」
わかった、とゴールドテープが巻かれた腕を空にかざしてくるくると回るミケは、なぜだかこれだけのことなのにすごく嬉しそうだった。
バレリーナのような白い衣装がよく映える。今まであまり感じたことのないような感情に少し戸惑いながらも、その姿に思わず笑みが漏れた。
ミケ(@jJSQNOnDxELEzOK)と