笑って

クオリア
ミラージュ共闘


「ミケ! おい!」
 マネルの尻尾を追いかけてあっさり姿が見えなくなったミケの姿を探す。もしあいつが一人で誰かと接敵したらと思うと心配でたまらなくなる。
 行った方を追いかけるも、魔法で飛べない俺にとっては森が歩きにくくて仕方ない。いい加減うざくなってきた時。
 耳に何かの音が入り込む。これは……?
「くおりん!」
 ミケだ。何かから逃げるように飛行してこちらへ一直線に向かって来る。あの軌道なら……うん、衝突するだろう。いっそ諦め、足に力を込めてミケに向けて手を広げた。飛び込むように俺とミケの体が合わさる。その体をしっかりと抱きとめた。もう他のところへ行ってしまわないように。
「どうした、ミケ」
 そう聞いたはいいが、ミケの後ろからゆらりと現れたその姿を見て口をつぐんだ。ミケは何か興奮しているかのように喋ろうとしている。
「くおりん。くおりん、あのね」
「ミケ、あれはお前がやったのか?」
 ミケの言葉の前に確認を取る。血だらけで足元もふらついているその化け物……俺にはそう見える、何かを見据えた。ミケがこくんと頷くのを確認して、少しだけ驚いた。あれがミケの恐ろしいもの。どこかミケの顔に似ているようなその人はぼんやりと俺たちの方を見ていた。
「あのね、ミケね」
「ああ」
 落ち着かせるため、背中をそっと撫でる。首にしがみついたままのミケは、俺にすがっているというよりアレを見ないようにしているようだった。
「……まだ、死にたくない」
 消え入りそうな声だった。一度力を込めてミケを抱きしめる。必死こいて逃げてきて、目で助けてと訴えて、悩み抜いて導き出した言葉がそれなら俺はいくらでも受け入れる。守ってやるし、助けてやりたい。
「死なせるわけねぇだろ、バカ」
 ぽん、と背中を叩いてミケを離した。ミケが生きるためにアレを殺さなきゃいけないのならいくらでも殺してやる。
「ミケ、教えろ」
「うん」
「俺はアレを殺していいか」
 アレの顔を見てしまったミケが言葉に詰まる。それほどの存在なのか、アレは。俺にはただ口と胸から血を流している女にしか見えない。俺はアレに対して何も感じない。
「く、おりん……」
「いい。聞き方を変える。ミケ、お前はアレをどうしたい?」
 ミケはずっと迷っているようだった。何かを言おうとしては口をつぐみ、視線をアレにやってはて元に戻す。じっと待った。急かすことじゃない。俺が決めることでもない、ミケの選択に俺は従う。
「……ミケ、は……」
 正面からミケの肩を掴んだ。顔を覗き込む。ミケの目が揺れた。不安なんだ、きっと。何かに……怯えてる。それはアレじゃない。
「ミケ。俺はアレがミケを傷つけるものなら迷いなく殺せる。でもアレは俺が殺すものじゃないだろ」
 できることなら、今すぐミケにこんな顔をさせているアレを殺していつも通り笑ってほしい。でもアホな俺ですらわかる。ミケが乗り越えないと、きっとミケは笑えない。
「俺はミケがどんな風になっても嫌いにならない。ただ……」
 この後の言葉はためらう必要なんてない。ただ伝わればいい、これが、俺の本当の思いだから。
「笑えないミケは見たくない」
 弾かれたように顔を上げたミケがほんの少し笑った。静かに頷いて、立ち上がる。俺の右手とミケの左手が自然と繋がれていた。ミケはまっすぐにアレを見た。アレはわけのわからない言葉を喚きながら、こちらに寄ってくる。
「くおりん、鉄パイプ借りてもいい?」
「ん」
 鉄パイプをミケの正面に差し出すと、つないでいない方の手をかざした。俺の手の中で鉄パイプは徐々に形が変わっていく。ほんの数秒で俺の鉄パイプは鋭い剣に変わっていた。
「あと一撃で多分、倒れる。くおりん、……ごめ……んぐっ」
「ごめんじゃねえだろ?」
「……ありがとう」
「ん、それ。できるか」
 繋がれた手がもう一度ぎゅっと握りなおされた。勇気と決意を確認するように、ミケが右手で俺の鉄パイプを構えた。
「……うん!」
 もう目の前にアレはいた。ゆらりと両手をミケの首めがけて伸ばす。ミケはその顔を見て、一瞬顔を歪ませた。ぎゅっと目をつぶってから今度はキッと前を見る。その口元がごめんなさい、と動いたように見えた。
 アレの腕がミケの首に触れる。構えた切っ先が、すでに血液が固まりつつある心臓部にまた突き刺さった。アレの吐いた血が地面に落ちる。何か言いかけたアレは結局何も言わなかった。ミケの首に触れていた腕はずるりと地面に落ちてその姿は猫に戻った。
 あまりにあっけなく終わったことに呆然としているのか、しばらくミケは動かなかった。
「ミケ」
 ゆっくりこっちを振り向いたミケは目に涙をにじませながら一番の笑顔で笑っていた。

ミケ(@jJSQNOnDxELEzOK)とミラージュ共闘
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