紙魚

レイ
魔物棟01


 どこかの文献で読んだことがある。紙魚の装甲とよく似たような面がある、と。実際に見てみたが、これが普及している国に紙魚が紛れたら気づかないのではないだろうか、と思うほどそっくりだった。
 はっきり言って気色の悪い見た目の面が普及しているとは考えづらいのだが、一つの文化として文献に載っているということは何処かの国ではこれが売買されているのだろう。そもそも、紙魚自体が一部のコレクターの中で高値で取引されているというし。魔物棟の魔物は捕獲が可能なのだろうか? 商業棟のどこかに売りつければそれなりの金額になるのではなかろうか。
「今回は紙魚だな。貴重な魔物ではあるからあまり傷つけないことを勧めておこう」
「はい」
 戦闘学の教師、グラに申請を出したのち、フィールド内に入る。特に凝った作りではなく、普通のフィールドの中に紙魚を捉えた魔法製の檻が一つ。中には二体の紙魚が薄気味悪い装甲をこちらに見せながら飛んでいる。
 傷つけず、命を奪って捕獲する。そして換金する。今回の目標はそこに定めてみよう。
「準備はいいか?」
「はい」
 グラの声がフィールド内に反響する。聞こえるようにできる限り声を張った。グラの指がパチン、と鳴る。
「では、開始する」
 魔物を捉えていた檻は一瞬で消え去った。
Dia della terra, Dia del cielo. Dare quel beneflcio天の神よ、地の神よ。我にその恩恵を与え給え
 基本詠唱。
Coagulare il nostro signore凝固せよ我が主
 微妙な調整を加えながら土を凝固させていく。どれほどで死ぬだろうか。何度か試した方がいいだろうか?
 おそらく、紙魚の真価とはその装甲だ。ならば背後から攻めてみれば装甲を破壊することなく生命を絶てるのでは?
Fioritura di fioriterra咲き乱れし土の花
 咄嗟に地面を隆起させ、紙魚をこちらまで誘導する。攻撃されていると認識したのか、顎をカチカチと鳴らしながら口から炎を吹き始めた。土に噛み付く個体もあるが特にダメージはない。心の中で少し間抜けだ、とほくそ笑む。
 紙魚の逃げ場をどんどん狭めていく。同時に、紙魚の背後ではできるだけ鋭くした土の塊を複数作っていた。果てしない魔力量を要するその作業に、汗がにじむ。紙魚が俺の存在に気づき、こちらへ牙を向けた、その瞬間。
Les ciao giuその身を降らせ
 鋭利な土の塊はまっすぐ二体の紙魚に突き刺さる。初めは弱く突き刺し、徐々に装甲を貫かないところまでジリジリと進めていった。鳴き声なのか羽音なのか、ジジジジジ、という音とともに紙魚の力が弱まっていくのがわかった。あと少し。ぐ、と奥へ差し込むイメージを強め、とどめを刺した。
 果たして、二体の紙魚はその場にポトリ、と落ちる。同時にグラの声が響き渡った。
「戦闘終了。戦闘時間、四十一秒。なかなかいい成績だ」
「ありがとうございます。この紙魚、いただいてもよろしいですか?」
「構わない」
 薄気味悪い装甲は羽を出すために開かれている。そっと元に戻し、内側の土の凝固を解除して落とした。刃物はあるだろうか、とポケットを探るとペーパーナイフが一つ。その場で装甲を傷つけないように中身を抉り出し、その場に捨てると二つのお面のようなものを抱えてフィールドを出た。

紙魚
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