パルキート

レイ
魔物棟02


「今回はパルキートでお願いします」
「わかった。準備するからフィールドに入っていいぞ」
 例のごとく、戦闘学の教師、グラに訓練棟の使用申請を出すとあっさりと受理された。ちょうど平日の昼間、授業のない時間にでも、と思ってきてみたが、やはりこの時間の利用者は少ないようだ。
 言われた通りフィールドに入る。今回戦うのはパルキートだ。
 毒を注入するための毒棘を持ち、敵に刺して火傷のような症状を負わせる。心臓部まで毒が回れば下手すると死ぬだろう。基本は球状で全長二十センチから五十センチほど。一見、ただの気味悪い魔物ではあるが、実はとても価値のある魔物でもある。
 以前、実家にいた頃に父に教わったことがある。魔物から取れる鉱物は希少価値が高い上、純度も高いためひどく高い価値をつけられると。パルキートもその一つだ。背袋と言われる、パルキートの食したものが貯められる部分には真珠ができる。また、その毒すらもいまでは美容手術用の溶解液としても使用されるらしい。
 つまりは、金の宝庫。一体でも捕まればいくらもらえるかわからないほどだ。
「準備できたな? 開始するぞ」
「いつでも、どうぞ」
 貿易商を継ぐものといえば、金の匂いに敏感でなくてはならない。この先、野生のパルキートと出会った時の予行練習にもなるし、ここで傷つけずに手に入れたパルキートの毒や真珠を商業棟で売れば、現在の市場価値を知ることもできる。
「では、はじめ!」
Dia della terra, Dia del cielo. Dare quel beneflcio天の神よ、地の神よ。我にその恩恵を与え給え
 グラの指が鳴る。かぶせるように基本詠唱を唱えた。四十センチほどの大きさをしたパルキートが一体、解き放たれた。奴は迷いなくこちらへ突進してくる。
Torreggiante muro di terra聳え立つ土の壁
 あの毒針にあたってはいけない。目の前の土を盛り上がらせ、壁を作る。どん、とぶつかる音が聞こえる。
 できる限り、綺麗な状態で息の根を止める。事前に調べてはいたが、真珠やできるだけ多くの毒を手に入れるには胴体部分を破壊すればいいらしい。背袋を破ってしまえば毒を散布するどころか、内部の真珠が巻き散らされるため傷つく可能性もある。ここは慎重にいこう。
Il nostro una spada我が主の剣
 ひどく精度を求められるが、一体だけならなんとかなりそうだ。身の回りの土をほぼ使って一本の剣を作る。普段ならそれほど土を練り込まなくとも鈍器代わりに使っているため問題ないが、今回は鋭さが必要になる。このままパルキートの動きを止め、その隙をついた胴部分これで切り取る。限界まで剣の刃を鋭くした。
Gubbie della terra土の檻
 パルキートが土の壁に体当たりしてくれているおかげで場所はなんとか割り出せた。動きが若干止まる。うまく土の檻の中に入ってくれたらしい。あれほどの大きさなら間から飛び出ることもないだろう。土の壁を取り払う。その向こう側には檻の中で暴れるパルキートがいた。これでは正確に切るのは難しいか。
Fioritura di fioriterra咲き乱れし土の花
 糸状に伸ばした土をパルキートの羽に巻きつける。地面から伸びるその糸がパルキートの動きを止めた。剣の鋭利さを保つための魔力、檻をその場に止めるための魔力、糸状の土でパルキートの動きを止めるための魔力。三重にもなった魔力の放出は明らかに体力を奪っていった。
 すぐに終わらせる。切る瞬間だけ、すべての魔法を解けばいい。剣を振り上げ、背袋と毒棘部分の繋ぎ目に刃を滑り込ませた。より甲高い鳴き声をあげたパルキートがさらに暴れる。あまりにも不快な音に思わずひるんでしまった。その一瞬、細い一本の線でつながっていた集中力はあっさりと途切れる。檻や糸状の土はあっさりと地面に戻り、剣の精度も鈍くなる。あ、まずい。これは……!
 そう思った瞬間に背袋が破れる。それはスローモーションかのように俺の目に映った。
Coagulare il nostro signore凝固せよ我が主
 戻ってきた魔力をフルに使用し中から溢れ出た真珠を一つ一つ、柔らかく設定した土の塊で受け止めていく。なんとか一つもこぼさず取れたらしい。
Les ciao giuその身を降らせ
 同時に毒をまき散らせる前に一つ、パルキートの上部に用意していた大きな土の塊をパルキートに降らせた。グシャ、と音がしてパルキートは潰れる。
「戦闘終了。戦闘時間、二分七秒。お前は欲張りすぎだ、クロンツェ」
「性なんです。申し訳ありません」
 土を布状に伸ばして作った袋の中に真珠を一つ一つ入れていく。受け止めていた土は真珠のコーティングに使い、割れたり傷ついたりしないようにした。
「その根性は認めてやる。ただ殺すだけならすぐ終わっただろうに」
「パルキートの毒ももらいたかったんですけど、これじゃあ土と混ざって純度最悪ですよね」
「……実戦で欲張りすぎると死ぬからな。気をつけろ」
 曖昧に笑ってフィールドを出た。もはや行きつけとなりつつある商業棟の質屋へ向かおう。

パルキート
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