クラヴィニアから帰って来て少し経った頃。特に長年学園にいる奴らがほんの少しだけ浮き足立っている。この先何があるのか若干の噂は聞いていたが、それどころではなかった。
廊下を走る。デルタから連絡したものの、ミケも動いていたら合流はできなさそうだ。すれ違う生徒とぶつかりそうになりながらも足は思ったより軽い。本番はまだ。むしろこれは準備段階だ。けれど俺にとってはこれを言い出すことすら緊張する。
「ミケ!」
見慣れすぎたオレンジのツインテールに声をかける。思わず走っていた自分の勢いを殺せず、つんのめりそうになる。格好がつかない。
「ふふ、どぉしたの、くおりん」
「持って来てくれたか? さっき言ったやつ」
少し前までクラヴィニアでの出来事を思い出しながら、部屋で悶々としていた。こんな些細なことを言い出せないなんて自分らしくないと思いながら、どうしても断られたら? という思いが拭えなかった。これまで考えたことのないこのささやかな恐怖と躊躇いはミケにしかおこらない。
ポケットの中で交流祭の星が揺れる。二人で集めた交流際の星は、十分な金属を携えている。だから。
「うん。交流祭の星だよねぇ。全部持って来たけど……」
「……もらっていいか?」
交流祭で配られる星は持ち主の生命を司る。持ち主の命が消えてしまえばその輝きも失われて真っ黒になってしまうらしい。実際そうなったものを俺は見たことないけれど。
「もちろんだよぉ」
パラパラと両手の中に落とされたミケの星は全部で四つだった。ギリギリだ。俺の今の魔力では絶対に失敗はできない。こんなので失敗してたらきっと、実戦では何の役にも立たないのだろうと少しだけ自嘲した。
「何に使うのぉ?」
「んー……秘密。それと、創立記念日の噂聞いたか?」
「うん! ダンスパーティーだよね!」
全力の笑顔で答えたミケも、きっとそれを楽しみにしているようだ。言おう。別にまだもう少し先だけど、今言えなかったらいつまでも言えない。
「その……」
「一緒に行こぉ! その前にドレス選ばなきゃね! 次の休みの日は一緒に商業棟行くよぉ!」
なんてことないように、ミケはほんの少し低いところから俺を見上げて言った。ミケがさも当然のことのようにいうから、びっくりしすぎて何も言えなくなった。くおりん? と首を傾げた彼女の頭へ乱暴に手を乗せてわしゃわしゃとかき混ぜる。
「もぉー、なに? どしたの?」
「なんでもねぇ。次の休みな!」
びっくりするくらい安心して、緩んでいる表情を見られたくなくてさっさと背を向けてその場を離れた。握りしめた手の中で金属の星がカチカチと音を立てる。