「緊急事態だ」
聞かされた教師の言葉を頭に入れながら、ほんの少しだけ遠い親戚のことを思い描いていた。あいつは果たしてこの状況を無事に乗り切れるだろうか。
なんだか妙にふわふわとしている。教師の言葉は決して普通のものではない。テュルキースバルトの時とはまるで打って変わった様子だし、アイゼンの時よりも深刻そうに見える。
一部の教師の表情は厳しい。ざわめきはいつも通りでも、どこか浮き足立つような……それは決して楽しみや愉快さから生まれたものでは決してなく、何かが待ち受けているのを予感しているような不穏さだった。
ハイリヒンメルを故郷に持つ生徒たちは多い。慌ただしく部屋へ戻る生徒や、その場で放心する生徒も様々だった。気持ちはわかる。故郷との結びつきが希薄な俺でも、アイゼンが攻撃されたときは心中穏やかではなかったのだから。
討伐の予感をしていたせいで右手にはいつもの鉄パイプが握られていた。俺はどうせ、これしかないんだから。どうせならもうすぐに行こう。苦しんでる人がいるなら、それを俺は助けたい。
「くおりん!」
ゲートの方向へ歩き始めた俺の背中から聞き慣れた声がした。振り返れば頭の中に浮かんだ声の主がちゃんとそこにいる。
「どうした?」
「いくんだよね」
「おう」
「そっか」
こういう時のミケは、待つに限る。何か言いたげな様子は十分に伝わるが、ミケの中でも言うか言うまいか悩んでいるのがもっとよくわかるからだ。黙ったまま彼女の揺れる髪を眺めているとパッとその顔が持ち上がった。
「い、いってらっしゃい」
「……ん、いってくる」
いつものように頭をぐしゃぐしゃと撫で、手を振って背を向けた。ミケが行かないのはほんの少しだけ安心する。守るべきものが減るから。
ゲートを潜る前に渡された受信機が光る。ついで聞こえてきた声は、紛うことなく生徒のものだった。
「周囲の生徒に告ぐ! この声が聞こえるか!」
「お*聞こえてんぜ」
相手に聞こえているのかいないのか、ぼやいた声はひとりでに溶ける。
「腕に覚えがある者はドラゴンとの戦闘に協力を求む!」
口角が上がった。ようやく本命のお出ましか、と。ドクフラシや避難誘導ばかりじゃ腕が鈍る。一発くらい、でかいのにぶちかましたい。
「うっし、行くか!」
ひとりで声を張り上げた。人のいなくなった周囲に声がこだまする。
ゾンビドラゴン討伐チーム:D-4
戦闘パートは後ほど。