きちゃった。



「ついてきちゃった」
 全く抑揚もなく、動かない表情でそう告げた彼女の顔を見ながら大きなため息をついた。頭を抱えて座り込みたいほどに彼女は飄々とそこに立っている。
「……討伐依頼、なんですが……」
 そんなことは知っているとでも言いたげな表情なのだろうか。相変わらず、黒いマスクに隠れた目は見えない。
「お役には立てるかと。レイさんが万が一死んだりしてしまったら困りますし」
「ええ、ラグナさんの戦闘力が高いことは知っています。知っていますので、とりあえずその瓶を仕舞いましょうか」
 ここまでついてこられてしまったのなら仕方ない。渋々といった感じで懐にApple pieの小瓶を懐にしまったのを確認すると歩き出した。彼女は小走りで俺の後を追い、隣に並んだ。
「ミラージュには遭遇したくないですね」
「……ええ、その場合は逃げましょう」
 少し不思議そうな表情を見せたラグナに、彼女が機械であったことを思い出す。もちろん感情はあるのだろうが、彼女が恐怖するような存在はないのかもしれないと思うと羨ましくなる。いや、こうして誰かの感情を決めつけるのも良くないのだ、わかっている。
 ラグナがとっさに立ち止まった。彼女の手が俺の前に出され、思わず立ち止まる。
「魔物の気配がします。この魔力量であればマネルかと。どうしますか?」
 一応の確認、といったようにラグナがこちらを振り返った。無言で頷く。タイミングを見計らったように数体のマネルが登場した。
Dia della terra, Dia del cielo. Dare quel beneflcio天の神よ、地の神よ。我にその恩恵を与え給え
 すぐさま基本詠唱を唱えると合わせてラグナも武器を取り出した。彼女が動くなら俺はサポートに徹することになるだろう。何時ぞやの日に見た彼女の戦いぶりが脳裏に蘇る。喋らなければ、本当に綺麗な戦い方をするのに。
「戦闘開始」
 短く言葉を放ったラグナが駆け出した。まずはマネル三体が彼女の標的のようだ。両手の剣を振りかぶる。
Fioritura di fioriterra咲き乱れし土の花
 彼女の動きに合わせるように土を動かす。マネルの逃げ場を塞ぎ彼女の攻撃を通りやすくする。切っ先がマネルの腹に突き刺さりあっさりと血がふきだした。
 無慈悲に剣を抜く。彼女の足元の土を動かしてリフトすると、上がるすんでのところでもう二匹剣を突き刺した。高らかと、それを持ち上げて地面に叩きつけた。なかなかエグいことをする。
 足場を蹴り上げて奥の一体めがけて跳んだ。マネルに接敵する直前、足から剣が出現して顔を見事に突き刺した。すぐに剣を収納して着地する。一瞬のようだ。血だらけのマネルたちが地面に横たわっている。
「……ありがとうございます、レイさん」
「いや、こちらこそ。やっぱり戦ってる姿は……」
 綺麗だ、と言いかけて思わず口を閉じた。なんだか直接伝えるのは恥ずかしい気がして顔を背ける。
「なんですか?」
「いえ、なんでも」
 剣についた血を拭ってしまいながらラグナが近づく。少し後ずさりするとさらに近づいてきた彼女をなんとか押しとどめる。
「戦ってる姿はなんですか?」
「なんでもないです! 行きますよ」
「あ、レイさん」
 彼女を押し避けて前に進む。しばらくは言わないでやろうと心に決めた。

ラグナちゃん(@homu_o)と共闘


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