スイカ割り


「ただいまより戦闘訓練を始める! 二名、前へ」
「うぃ〜」
「なのだ〜」
 戦闘学の任意参加の戦闘訓練。必ずペアで参加しなければならないが、学年・クラスを超えて参加が可能なものだ。申請すれば訓練に扱う魔物を教師側が用意してくれる。
 今回共に申請を出したのはジャガーのガオ・ファン。一つ上の学年のアッカ生だが、知り合って一度殴り合いの喧嘩をしてから意気投合した。
「今回の魔物はこれだ」
 魔物棟の訓練スペースに足を踏み入れた途端、今入ってきた扉が大きなお音を立ててしまった。教師が中心に置かれた布をかけられた檻に手をかけ、一気に布を引いた。
「……スイカ?」
−−−GYAAAAAAA
「……じゃ、ねえみたいだな」
 そのスイカのような形をした魔物は牙を携えいかにも凶暴そうな叫び声を出した。背後には蠢くツルとその根を生やしているスイカの花が生えていた。
「ジャガーこういうの苦手……」
「サン・ディアボロスだ。細かいステータスは授業で取り扱った通りだ。たとえ忘れていたとしても再度通達はしない。準備ができたのなら檻を外すが、どうする?」
 サン・ディアボロス。名前は聞いたことはあるが、そのステータスなど俺が覚えているわけもない。隣で嫌そうな顔をしているファンの横腹を突いた。
「な、お前あれのステータスとか覚えてるか?」
「覚えてると思う?」
「……よし、やるしかねえな!」
 気づけば教師がドアの前に移動していた。振り返って合図を送る。
「では開始する!」
 パチン、と教師の指がなったと同時にサン・ディアボロスを覆っていた檻が消えた。一瞬の間ののち、口を大きく開けたスイカがこちらへ向かった。正確には、ファンの方向に。
「うおっ」
 二人して別々の方向に飛び散った。スイカの実はどこまでも伸び、ファンを追っている。
「あーもう、うっぜえな!」
 逃げていたファンがUターンをキメて拳を構えた。綺麗な弧を描いて拳がスイカを叩き割る。わかってはいたが、友人ながらその腕力には感嘆する。粉々になったスイカはその場に飛び散って動きを止めた。
 しかし。
「ファン! あと二個行くぞ!」
「はぁ?」
 ファンの方へ今度は二つのスイカが伸びた。俺の方へも一つ、同時に動いている。右手にある鉄パイプを握りしめ、思い切り突き刺した。スイカの口が目の前で開いている。静かになったそのスイカから鉄パイプを抜こうとした時。
−−−GYAAAAAAAA
「なっ」
「クオリア! これキリがないのだ!」
 ジタバタと鉄パイプに刺されながらも動き始めたスイカをそのまま地面に振り下ろした。ぐしゃっと潰れ、完全に動きを止めた。
 どうやらこのスイカは、形を失くせば大人しくなるらしい。ファンの足元にもスイカの破片がいくつも転がっている。
「クッソ、あの花でもむしればいいんじゃねえか!?」
「あー……じゃあ、俺が足止めしといてあげるから毟ってくるのだ!」
「おうよ!」
 今度はファンに三つ。俺に二つ。ちらりと見えた花から伸びたツタにはあと三つほど実がなっていた。ファンの方へ走る。まずはスイカを一つの場所へ集め、その反対から攻めてやる。
「……ファン! お前の背中、借りるぞ!」
「え!? なに!?」
 スイカの横をすり抜け、ファンの背中に飛び乗った。とん、とその背中を蹴って飛び上がる。背中をしならせて空中で一回転し、距離を稼ぐ。追ってきたスイカに鉄パイプを突き刺し、反動を利用して花の真上まで辿り着いた。落下。突き刺さったままのスイカを振り上げ、思い切り叩きつけた。
「……やったか!?」
−−−GYAAAAAAAA
 花はしおれたものの、ツタが急激に伸びて俺に向かう。スイカから解放された鉄パイプでは正面をしのぐので精一杯だった。スイカの実もところどころから寄ってくる。どうすればこの植物の息の根を止められるのか。考えろ、考えろ……!
 ふと、さっきスイカごと鉄パイプを叩きつけた場所を見た。土がえぐれ、中から緑色の皮がのぞいている。中にもまだ、いるのか?
「クオリア、なんかないのだ!?」
「ちょ、ファン、こいつらどうにかしてくれ! 土の下になんかいる!」
「もう、仕方ないなー!」
 ファンの下半身が鳴らす音が近づいてくる。
「……血祭りにあげてやるよ」
 低い声が響く。背中に辿り着いたファンの手と前足が次々とスイカの実を壊した。隙を縫ってえぐれた土の隙間に思い切り鉄パイプを突き刺す。その、次の瞬間。
−−−G,GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
 それは悲鳴の大合唱だった。地上に出ているスイカの実も動きを止めその大きな口から悲鳴が漏れている。
「……終わった?」
「戦闘訓練終了! 戦闘時間四分五十二秒。ご苦労様」
 何が何だかわからないうちに終わっていたらしい。浮かんでいたツタや実は地面に力なく横たわり、中途半端に割れた実からはなんとも美味しそうな赤いスイカの中身がのぞいている。
「あ、食べたかったらそのスイカ食べていいぞ。ここ開けとくから五分以内に出てけよー」
 教師がバインダーに何か書き込みながら訓練スペースから出て行った。俺とファンは無残な姿をしたスイカと共にその場に残されてしまった。
「なんかよくわかんなかったのだ」
「だな……。とりあえず、スイカ、一緒に食うか?」
「食べるのだ!」
 まだ食べられそうなスイカを拾う。それなりに楽しかったし、まぁこれはこれでいいのかもしれない、と嬉しそうなファンを見て少し笑った。

ファンくん(@rui_252F)&クオリア