ふたりいっしょに!


「あ、クオリアお姉さま!」
「お〜、夕凪じゃん。今日はお前か」
 戦闘学の授業では教師が勝手にペアを組み、魔物を討伐する実践訓練も行われる。この場合は大抵が同学年だがクラスは関係ない。
 今回のペア、夕凪は小さな体に似合わぬ大きな金棒を引きずりながらこちらへてとてとと向かってきた。
「よろしくな」
「はい! クオリアお姉さまと組むのは初めてなので楽しみです!」
 ふわふわの白い髪の毛がピョコピョコと揺れる。可愛らしくてつい、笑みがこぼれた。
「クオリア・エルベール、夕凪、両者は訓練場に入って待機しろ!」
 二人揃って訓練場の中に入る。観客席や見学スペースには戦闘学に出席しているクロー生、アッカ生で埋まっている。この授業は実践訓練に出る生徒以外にも出席が取られ、成績につながることがあるのだ。
「今回二人に討伐してもらう魔物はこれだ」
 中央の檻にかかっていた布を教師がとる。中にいたのはジュモーだった。アイゼンでも何度か遭遇したことのある魔物だ。双頭の狼でそこまで強くはないが、なんでも食べる厄介魔物だ。しかも面倒なことに知性がある。
「制限時間は五分。より早く討伐した方が評価は上がると思え。準備が出来次第、私に合図を送ること」
 教師は先ほど入ってきた入口の方へと歩いていく。夕凪に向き直った。
「準備、なんかすることあるか?」
「えっと、大丈夫です!」
「おう。特に作戦とかも決めなくていいよな?」
「はい!」
 振り返り、教師の方に手をあげる。これが、開始の合図。
「じゃ、いっちょやっちゃいますか」

「実践訓練、開始ッ」

 開始の声と同時にジュモーを抑えていた檻が消えた。
−−−GRRRRRRRRRR
 唸り声とともにこちらへ威嚇してくる。鉄パイプを握り、駆け出そうとした。
「い、いきまーす!」
 その横を夕凪が突撃していく。金棒を振り上げ、思い切りジュモーに叩きつけた。その攻撃は重さゆえか少し遅く、ジュモーの機敏さがそれを避けた。夕凪に近い方の首が回り、夕凪の腕に噛みつこうと口を開ける。彼女の振り下ろした金棒は地面に突き刺さりヒビすら入れているが、それゆえなかなか抜けないようだった。まずい。走りだす。間に合え! 叫ばずとも必死で鉄パイプをその口の間にねじ込んだ。
「っ、セーフ」
「へ、あ、ありがとうございます……!」
「いいよ」
 俺の鉄パイプを噛み砕きそうな勢いでジュモーはうなる。ぐ、と腕に力を入れ鉄パイプごとジュモーを持ち上げた。
「ちょっと、頭下げてな!」
 遠心力を利用してその場でジュモーを振り回す。耐えきれなくなったのかジュモーはその口を離し、訓練場の端まで吹っ飛んだ。
「っしゃ、どうよ!」
「し、死んじゃいましたか……!?」
 数秒、沈黙を続けたジュモーが唸り声とともに立ち上がる。まだ、か。さすがにあの程度で死んでしまったらつまらない。
「夕凪、ちょっと待て」
 その姿を見て駆け出そうとする夕凪の手を掴んで止めた。大人しく立ち止まった夕凪は、俺を見上げる。
「俺が夕凪の金棒が届くところまで追い込む。だからお前は待機しててくれ。いいか?」
「は、はい!」
「じゃあ、直線距離で追い込むからここにいてくれ。……髪飾り、割れねえようにな」
 ツノの間にそっと手を置いた。彼女はこく、と頷いて金棒を構える。ジュモーに向き直り走り出した。鉄パイプを握りしめ、真正面から衝突する。飛びついてきたジュモーを一度鉄パイプで受け止め、奴の視線をこちらへ向ける。そのまま追い討ちはかけずに周回するように訓練場を駆け抜け、俺を追いかけさせる。
 徐々に方向を夕凪の方へ誘導していく。あともう少し。直線距離、今だ。夕凪に向かってまっすぐ走る。
「夕凪!」
「はい!」
 わずか1メートル後ろをジュモーがよだれを垂らしながら追いかけている。きたねえよだれが風に乗って飛び散るのが目の端に映った。夕凪まであと5メートル。4メートル。3メートル。走りながら鉄パイプを振りかざし、少し先の地面に突き刺した。踏み込んで飛ぶ。
「今!」
「せーの、ぶーんっ」
「っぶね」
 夕凪の上を飛び越えた瞬間、夕凪の金棒がジュモーにクリティカルヒットした。グェ、と言いながら口から泡を吹いて倒れるジュモーを尻目に着地する。

「終了。三分二十四秒。以上で実践訓練を終了する」

 ざわつく観客席を背に、夕凪がこちらへ向かってくる。
「クオリアお姉さま、ゆうなぎ、うまくできましたか?」
「おう。上手だったぜ〜。なかなかの好タイムだしな」
 頭をわしわしと撫でる。夕凪は嬉しそうに目を細めた。手を引いて扉の方へ向かった。夕凪は繋いでいない方の手で金棒を引きずりながら、小さなスキップをしていた。

夕凪ちゃん(@fuafua_ssk)とクオリア