棚ぼた


 タ=ラカ。目も鼻もないその個体は突然俺の目の前に現れた。森を散歩していたとき、ガサガサと草が揺れたと思ったらこれだ。すぐさま戦闘態勢に入り、ギリギリまで追い詰めていた。あと一撃。これを食らわせれば倒れる、その時。
 俺の横をすり抜ける一矢。危うく当たるところでひやりと肝が冷えた。その矢は一つもぶれることなくタ=ラカに突き刺さった。
「……誰だ」
「おっと、すまん。邪魔したか?」
 おどけたような声の主に振り向くと、そこにはアッカ生らしき男が弓矢を構えて立っていた。
「お・れ・の獲物ー!」
「そうだったのか。てっきり、襲われてるのかと思ってな」
「思いっきり戦ってたろうが!」
「悪かったって。まぁ、怪我しなかったならよかっただろ」
 むすっとしながら正確に心臓部を射抜かれて息絶えているタ=ラカを見つめた。にしてもこの精度はすごい。俺の横を矢がすり抜けた時も、それ込みでしっかりと軌道が練られていた。さらに俺のかなり後ろから打ったはずなのに、矢はしっかりと内臓にまで達している。
「……燃やそうか」
「は?」
「いや。ちょっと悲しそうに見えたから、埋葬でもしてやろうかなって思って」
 あまりにも神妙な面持ちで彼がいうので数秒ほど面食らってしまった。その言葉の意味を理解して大きなため息をつく。
「獲物を横取りされたことが悔しいだけだっつーの! しかも火葬かよ!」
 そうかい、と頭をかく彼に向きなおる。少なくとも、こいつに悪気がなかったことは理解した。優しいやつなのだろう。
「俺はクオリア。クオリア・エルベール。アッカの一年。お前は?」
「ああ、フォティア・テンペルだ。アッカの五年。先輩だな」
 ちょっとドヤ顔混じりでいうフォティアにイラっとしつつも苦笑いを返した。
「火葬、してやってくれよ。俺も食われないために戦っただけだからな」
「わかった。……できるだけうまくやる」
「……え?」
 できるだけ? その言葉を聞き返す前にフォティアはタ=ラカに手をかざしていた。目を見開いて力を入れている。数秒、何も起こらない。おい、と声をかけようとした次の瞬間、ボンッと音を立ててタ=ラカが爆発した。状況を飲み込むのに時間がかかる。もはや怒りや呆れよりも面白さが先行して喉の奥から笑いが漏れてきた。
「ふ、あははははははっ、おま、なんだ、それ!」
「う、魔法の制御は苦手なんだ。笑うなよ」
「にしても、爆発させるって……はははははっ、あんだけ威勢良かったのに!」
 ばつが悪そうに頭を掻くフォティアの背中をバンバン叩いて爆笑した。ひとしきり笑ったのち、目に滲んだ涙をぬぐいながら彼の腕を引く。
「詫びに商業棟で甘いもん奢れよ。先輩だろ?」
「……仕方ないな」
 ガッツポーズ。足取り軽やかに、俺とフォティアはその場を離れた。
 黒焦げになったタ=ラカはポツンとその場に取り残される。

フォティアくん(@homu_o)とクオリア