お疲れ様の


「……全然わかんねえ」
「さっき言ったばかりだろう。ここは……」
 アッカ寮の談話スペース。数名のアッカ生が散らばって座ってはいるが、人影は少ない。その一角に俺とシュウは机とにらめっこしていた。
 もうすぐ行われる魔法学の魔法力計算式についての小テスト。さすがにここ最近点数が低迷しすぎて先輩であるヒイラギシュウに助けを求めた。
 シュウは嫌な顔せずに受け入れてくれたが、如何せん何を言っているのかわからないのだ。授業を聞いていない前提で話してほしい。
「なぁー、もうちょっと噛み砕いてくれね?」
「これ以上どう噛み砕けというんだ。十分すぎるくらい噛み砕いて話してるだろ」
「そんなあ〜……」
 机に突っ伏した。だらーんと手足を伸ばし、もうこれ以上できないというサインを体全体で表した。シュウはため息をついてテキストを引っ張った。体を起こし、されるがままにシュウを見つめる。
「いいか、もう一度説明するからよく聞け。これが終わるまで帰らせないからな」
「き、鬼畜……」
「なんとでもいえ。そもそも、お前から頼んできたんだぞ」
「うぅ〜。……わかったよ」
 シュウの説明が始まる。真剣に教科書の文字を追いながら、頭の中で構築していく。やはり途中はよくわからないが、さっきよりかは解き方の目処が立ったような気がする。
 あらかた説明を終えると問題を指差した。
「これをここから、」
 指がす、と大問ひとつ分をなぞる。
「ここまで、解いておいてくれ。俺はちょっと用があるから出る。一時間後に戻る」
「なんだよ、遊びいくのかよ」
「……まぁなんとでも言え。ちゃんと解けよ。さっき説明したことと教科書を見ればなんとか解けるはずだ」
「へいへーい」
 顎を机の上に乗せ、ペンを口に挟みながら返事をした。シュウは何か言いたげに俺を見たがそのままどこかへ行ってしまう。
 不満を抱えながらもシュウの指差した範囲を解き始めた。全然わからなかった問題も、さっきよりかはわかる気がした。

「おい」
「んあ……?」
 肩を揺すられ目を覚ました。口元のよだれを拭って体を起こす。振り返ると眉間に皺の寄ったシュウが立っていた。
「また寝てたのか……」
「な、俺はちゃんとやったからな! あってるかはおいといて、ほら!」
 疑わしそうな視線を注ぐシュウに問題集を突き出した。しばらくジロジロを紙面を見ていたシュウがちょっと満足げに笑って頷いた。
「……ちゃんとやってあるな」
「だろ!?」
「じゃあほら、これ」
 差し出された紙袋を受け取った。中を覗くと甘い匂いが漂う。これは……。
「マカロン……?」
「差し入れだ。ぶっ続けで疲れたと思ってな。……いらないならいい」
「い、いるいるいる! ちょっとびっくりしただけだっつの」
 紙袋の中身には数種類のマカロンが入っていた。商業棟にある店の一つだが俺がこれを好きだと語ったのを覚えていてくれたのだろうか。ほおが勝手に緩み、紙袋からひとつマカロンを取り出して頬張った。サクサク、しっとりとした食感の後、あの大好きな甘さが広がり多幸感に包まれる。もうひとつ、取り出した。少し考えてもう片方の手でまたひとつ。
「ん」
「え?」
「これ、礼」
 俺の解いた問題の採点をしているシュウに差し出すと、彼は素直に驚いた顔をした。何度か俺と手の中のマカロンを見比べて恐る恐るといったように受け取った。
「君……人に分けるという脳があったんだな」
「マジでバカにしてんのか?」
「いや、してない。ありがとな」
「おう。これ、マジでうめーから自分でも食わなきゃもったいねえよ! 俺の方こそありがとな!」
「ところで、ここ間違ってる」
「えっ」
 二人で口をもぐもぐと動かしながら手元を覗き込む。
 その日は夜まで机と睨み合いながら口論する二人の姿が談話スペースにあったのだという。

シュウくん(@ponrete)とクオリア