サボリ魔たちの暇つぶし


「お? パルヴィじゃねえか!」
 本来なら魔法学の授業中のこの時間、寝坊したせいで授業に行くのもめんどくさくなってしまい校内をふらついていた。ふと、サボリ魔仲間のパルヴィの姿を捉えすぐに声をかけた。パルヴィは声の主をしばらくキョロキョロ探し、俺を見つけると手を振ってこちらへやってくる。
「お前、地味に神出鬼没だからなかなか会わねえよな〜。久しぶりだな」
「そうだね、クオリアちゃん。君もサボり?」
「おう。寝坊しちまってよ〜」
 二人で並んで歩き出す。おそらくパルヴィにも俺にも目的地はない。
「どっか行くのか?」
「いいや。商業棟巡りでもしようかなとは思ってたけど。それもまたつまらなさそうなんだよねぇ」
「んーそうか……」
 パルヴィは大の面白いもの好きだ。面白いことを提案すればすぐに飛びついてくる。何か、あるだろうか。俺の暇も潰せるような遊び。
「そういやお前、強化魔法使いだよな?」
「そーだけど」
「じゃあ俺と魔物倒し行かね? 訓練場はいつでも空いてるはずだし」
「本当に君は好きだね。楽しいかな、それ……」
 苦笑いを交えてパルヴィは言った。彼女はあまり自分で動くということをしないタイプだ。強化魔法に特化しているし、体力はあまりない。ただ、よく俺が戦っている姿は面白い、と言って見ていてくれる。それなら。
「俺が戦ってるのを軽く支援してくれるだけでいいからよ。お前が怪我しないようにどうにかするし!」
「うーん、ま、飽きるまでならいいよ」
「よっしゃ、行こうぜ!」
 パルヴィの手を引いて訓練場へ走り出す。少し楽しそうにパルヴィは笑っていた。

「エルベール。今は授業中のはずだが?」
 訓練場管理担当の教師に使用の旨を伝えると厳しい視線を浴びせられた。特に気にすることなく頼み込むと大きくため息をついて手続きを進めてくれた。
「後ろの……パルヴィ・パユもか?」
「そうでーす」
「魔物は選ぶか?」
「センセーのチョイスでいいぜ! 入ってるなー」
 背中に大きなため息を感じながらもパルヴィの手を引いて訓練場の中に入った。舞台はいつもと変わらず。観客席は閑散としているだけで中央には魔物の入った檻が設置してあった。
「なんか、おっきくない?」
「そうだな……」
 俺と同じくらいの全長の檻に布がかかっていた。教師の声が放送で入る。
「一気に布と檻をとるがいいか? 魔物は……」
「いいぜ! さっさと片付けるから時間計ってろよ!」
「……ハァ。わかった」
 パルヴィがす、と手をあげるのがわかった。バット状の杖を振り上げ、強化魔法の準備をする。ポケットからガムを取り出し、口に放り込んだ。

「開始ッ」

 教師の声が響くと同時に魔物の姿が現れた。これは……
「アローケオ!?」
「ほぼソロにこれやらせるとか、面白いねぇ!」
 足に炎を携えた馬はこちらへ突進してくる。思わず逃げるように走り出していた。
 アローケオ。額にユニコーンのような一本の角を生やし、足には常に炎を纏っている馬の魔物だ。気性が荒く、一度走り出すと止まらない。つまり、俺を殺すまで今背中に迫っている馬は止まらないというわけだ。ちなみにこれは基本的に二人以上のペア、またはグループで討伐する。俺とパルヴィもペアではあるが、さすがに無茶があるのではないだろうか。あの教師め、わかっててやりやがったな。
「マジでヤベェ! パルヴィ!」
「はいはーい」
 パルヴィがバット状の杖を振ったのを目の端に映した。同時に、体の中に力がみなぎっていく。かけていく足も速くなる。そのまま助走をつけ、踏み込んで飛んだ。観客席の手すりを掴み、アローケオの背後まで飛んだ。
 突然の軌道変更に動揺したアローケオだが、すぐにこちらに振り向き俺を追いかけてきた。これではいつまでも攻撃を与えられない。どうにかしなければ。
「パルヴィ!」
「なーにー」
 気づけば、彼女は観客席のヘリに腰掛けて俺を見てゲラゲラ笑っている。全く、他人事だと思いやがって。
「もう一回俺に強化かけられねぇのかよ!」
「えー……成功する可能性は低いけどできることにはできるよー」
「できんのか!? やれ!」
「でも失敗すると今より下がっちゃうよ」
 俺一人でアローケオに勝つには、走っているアローケオの横腹に回り込んで底をつくしかない。正面からでは俺に隙がありすぎるし、いくら背面に回ってもあの足で蹴られれば無事では済まないだろう。
 パルヴィにかけるしかない。これはもう、持久戦だ。
「いいから! やれ!」
「んー、わかった!」
 少しの間。パルヴィが杖を振った。体がガクン、と重くなった。失敗か。そう思った瞬間、俺の足はさらに速く動いていた。体がついていけないほどに速く。これでは動かしているというより何かに動かされているといったほうが正しいだろう。
「やった! 成功した! さっすが運のパラメーター高いわたし!」
「なんか楽しそうなところ悪いがそっちいくぞ!」
「え!? ちょっと待ってよ〜、来ないで〜!」
 そう言われても進行方向は変えられない。パルヴィの座っているところまで一直線に走っていく。俺の3メートル後ろにはアローケオが猛スピードで迫っている。
「パルヴィ、捕まれ!」
 パルヴィに左手を差し出す。しっかりとつかんだ感触を確かめて、踏み込み飛んだ。能力が三倍ほどになっている俺の体は俺が思ったよりも飛んでいる。パルヴィをより高く放り投げた。え、という口の動きだけはわかったが、さすがにちょっと構ってられない。アローケオの真上から落ちていく。鉄パイプを垂直に持ち、そのまま力を込めた。
−−−GUOOOOOOOOOOOO
 コンマ一秒後、俺の鉄パイプはアローケオの背中に刺さっていた。一度咆哮を聞いたのち、地面に叩きつけられるすれすれのパルヴィと地面の間に体を滑り込ませた。足を少々擦りむいた感覚はあったものの特に怪我もなく受け止められたようだ。
「終了。二分五十七秒。ご苦労様」
「ご苦労様じゃねえよ! 魔物のチョイスどうにかしろっつーの!」
 体から強化魔法が抜けていく感覚がする。一気に蓄積された体への負担がのしかかり力も一緒に抜けていった。パルヴィは先ほどか大爆笑している。
「お前が勝手に選べと言ったんだ。文句は受け付けていない。そもそも、討伐できたからいいじゃないか。割と好タイムだぞ、これ」
「うるせー! 成績あげろよ!」
「サボリ魔にやる成績などないに決まってるだろう」
 ムカつく教師の言葉にも、これ以上返す力は残っていなかった。ぜぇはぁと息を切らせつつ、パルヴィを解放する。振り返るとすでにアローケオはおらず、魔物の血に濡れた鉄パイプが転がっていた。
 しばらく笑っていたパルヴィはようやく笑い止むと俺の鉄パイプをとり、俺に差し出した。
「おう……サンキュ、」
「いやー、めちゃくちゃ面白いもの見せてもらったよ。あの場面で高く放り投げられるとは思わなかったなぁ」
「そうか……楽しかったならよかったぜ」
「ははは、立てる?」
「ちょっと、一人じゃ無理かも」
 ほら、とパルヴィが手を差し出した。一度パチン、とハイタッチをしてからその手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。

パルヴィちゃん(@utatane__zZ)とクオリア