森の中
「よっ、と」
例のごとく森を徘徊中、突如飛び出してきた魔物と交戦していた。どこにでもいるような大きさのジュモーだった。この程度の魔物ならすぐに殺せる。最後のトドメを刺そうとしたその時。
「あ?」
−−−GYUUUUUUU
鈍い鳴き声とともにジュモーの体が変化した。その鳴き声はどう考えてもジュモーのものではない。
「……え」
そこに現れたのはジュモーとは比べ物にならない、アローケオの姿だった。一度咆哮したやつは真っ直ぐに俺を見つめ、戦う体勢を整えている。あまりのことに驚愕して出遅れた。アローケオが前足をあげる。あ、これは……!
「あぶなーい!」
やばい、と思った次の瞬間、俺の体が突き飛ばされ先ほどまで俺のいた場所に人影が立っていた。人影が繰り出した魔法で土が隆起し、アローケオの火柱をなんとか抑えている。
「……ドーラ!?」
「ヤッホー、クオリアちゃん! センパイのお出ましだよ!」
そこに立っていたのはドーラ……ドロシー・カーターだった。アッカ三年、俺の先輩にあたる彼女だが、なぜここに……?
「私も散歩してたんだ〜。そしたらなんかこっち騒がしいから様子見に来たら、クオリアちゃんがピンチだったから!」
「あ、ありがとな……でも、お前……」
彼女の魔力、腕力は素晴らしい。何度か戦闘訓練でその力は見てきた。しかしどんな人にも弱点はあるように、彼女にはないものがある。それが……。
「ちょ、っとこれはピンチかも……!」
「だよな!?」
紙防御。彼女が魔法で繰り出していた土の壁も突破され、アローケオの火柱がドーラに迫る。
「クソッ」
立ち上がり、駆け出す。鉄パイプを握り直し、ドーラの制服を掴む。地面に鉄パイプを突き刺して思いっきり飛び上がる。鉄パイプの先端が火に炙られたが、なんとか脱出できたようだ。そのまま木陰に飛び込んだ。
「おお……さすがクオリアちゃん!」
「おう、ありがとな。逃げるなら今だぜ」
「逃げちゃうの?」
「俺は逃げねえよ」
ドーラの顔がパァっと輝く。成績もつかない、下手したら怪我だってするはずの野良魔物との戦いを喜ぶものは少なくない。この学園はそういうところだ。
「作戦たてんぞ。あいつ、確か弱点脇腹だから突き刺せばなんとかなるだろ」
「土魔法でどーんって手もあるよ?」
「あー……そっちのがいいか? 俺が陽動する。ここからアローケオまで魔法、届くか」
「うん、多分いける!」
よし、と呟いて向きなおる。心の中でカウントダウン。3。少し前に戦った時は強化されていたから、今とは全然違う。2、1。
木陰から飛び出す。音に反応してアローケオがこちらを向いた。また咆哮し、すぐにこちらへ向かってくる。ドーラから見て脇腹が正面に来るように必死で走った。やはりアローケオは馬が主体なだけあって足が速い。あれで全力疾走されたらすぐに潰されそうだ。幸い、そこが森だったため移動のための障害物はたくさんあった。少し開けている場所ではあるが、基本的に周りには木々がある。飛び上がって木の枝を掴み、猿の要領でとびうつる。奴のツノが足に当たる。あと少し。直線距離で、最大火力の土魔法を!
「……今!」
「せい、ヤァーッ」
地鳴りとともに土が隆起する。土の中からさらに土で作られた針のようなものが一直線にアローケオの横腹に突き刺さった。最後の咆哮がやがて元の魔物の姿に戻っていく。それは小さな貝殻だった。
「なんだこれ」
「イマーゴ、かな? 中級魔物だよ。本体だけじゃ動くのも無理なの。でもこのまま放置しとくとまたなんかしらの魔物に変化しちゃうかも……」
ふーんとつぶやきながらその貝殻を拾う。甲羅にはヒビが入り、確かにそれが動く気配はない。
「どうせならこれ、魔物棟持ってこうぜ。教師に見せたら成績あがっかも」
「ナイスアイディア!」
お互い顔を見合わせ、一拍おいてハイタッチした。パチンと小気味のいい音が、静かになった森の中に響く。
ドロシーちゃん(@nmdr_o)とクオリア