旧友



「サリー? まーた本の虫してんの?」
 図書室の中、もはや彼女専用の場所になりつつある一角に顔を出すと彼女はしっかりそこに座っていた。数々の本に埋もれ、彼女の姿が小さくなっている。ふと本から目をあげて僕を見た。
「茉紘か。何の用だ?」
「冷たくない? 貴重な留年仲間なのに」
 ほんの少し、空いてるスペースに体をもたれさせた。本を読むのは嫌いじゃないけど、一日の殆どをここで過ごすのも考えものだ。
 サリーことサリヴァンは図書室の本をすべて読むまで卒業しないと豪語している。それゆえ、一日の半分くらいは図書室にいるし、それ以外は自室で寝ていた。彼女もいつからいるのか分からないくらいここにいる、貴重な留年仲間だ。彼女は一年生のままで、趣味や普段やってることにはたくさんの差があるし、長話もあんまりしないけれど。
「暇だから様子見に来ただけ。元気?」
「見ての通り」
「そ、よかった」
 会話が続かなくなって黙りこくる。サリーの手元から、ページをめくる音だけが響いていた。
「で、本当の要件は?」
「だから、ほんとに様子見に来ただけだってば」
 実際、彼女に会いに来たのはそれだけだった。なんとなく朝起きて、授業も出ずに適当にブラブラしていて。なんとなく、だいぶ昔からの友人に会いに行きたくなったのだ。
 それはどこか、百年も前から僕を知ってる人が彼女くらいしか思いつかなかったからかもしれない。
 彼女にとって僕は本の外の世界の事象の一つに過ぎないことはよくわかっている。でも時折、僕を知らない人達を見て虚しさを覚えるのだ。僕はこの先何百年もここにいるだろう。それなのに僕のことを知らない人は、増えていくばかりで。
「なんか……アンタとの付き合いも長くなったなと思って」
「本当に唐突だな。何かあったのか?」
「何も無いからきてんのよ。何かあるならアンタじゃなくてもっと適任のとこに行く」
 彼女のように、なにか目的があればよかった。ただ漠然とこの世界に存在し続けるのは死んでるのと似ている。
「……もう行くわ、邪魔してごめんね」
「茉紘」
 立ち去ろうと背を向けた途端、彼女に名前を呼ばれる振り返るとつぶらな瞳が二つ、こちらを見つめていた。
「また来ればいい」
 あまりにもあっさりと、彼女は目的をくれた。一度まじまじと彼女の顔を見つめると、彼女は少し不思議そうな顔をした。
「……ん、また来るわ」
 今度こそちゃんと背を向けてその場をあとにする。彼女がいつまでここにいるか分からないけど、また暇になったら来てみよう。口角が自然と上がるのを抑えられなかった。


サリヴァンちゃん(@wocarinas)と茉紘