覚えてること
「サリー」
答えない彼女にそっと笑う。
「懐かしいね」
「……そうだな」
「でも今のサリーも好き」
「……唐突だな」
翳っていた彼女の表情が少しだけ、少しだけ笑顔になって安堵した。人は死ぬし、人の感情もわからない。そういうものだから、きっと。
「僕もたまに思い出す、昔のこと。もう死んじゃった子のこととか」
手元の小説から顔を上げた彼女がちゃんとこちらを見た。
「思い出すって素敵だね。どっかの本だったか、誰か人づてに聞いたんだか、忘れちゃったけど……」
ゆっくりと記憶の糸を手繰った。
「人は二度死ぬ、っていう」
「……命をなくした時と、誰からも思い出されなくなった時、か?」
「そう、それ!」
思わず大きな声が出てサリーの眉間にシワがよった。ごめんごめんと無言で伝えると彼女はいつものようにため息をついた。
「だから、まだ生きてんじゃんってことだよ言いたいのは。僕たちが覚えてる限り」
何かに迷うように、思案するようにサリーの視線が揺れ動いた。人差し指をその眉間に押し当てて微笑むと、むすっとした彼女が僕の指を払う。何も言わずに手を振ってその場を離れた。なんとなく、彼女の元へ行くときは大抵、過去を思い出してしまう時だということに、僕自身も気づいていた。
図書室を出る。少し前に見た彼女の、少し歪んだ表情が脳裏にこびりついて離れなかった。
付き合いを長くするということは、それだけ相手の人生を見るということだ。特別な関係ではないにしても長くここにいるというだけで僕にとってはある種特別だった。
サリーが寝言で呟いた名前はひどく懐かしい。サリーがだいぶ若い頃。否、今もなおその外見は変わっていないのだが、それでもかなり昔の話。あの頃生きていた生徒も、種族によっては寿命を迎えているかもしれないくらい。
出際に盗み見た小説の一節がよぎった。僕はわからない。恋がいいものだとか、悪いものだとか、そういう善悪の面では教わらなかったのだ。とっさにあんなことを言ったけど、僕自身の経験でも恋なんて、いや、きっとそんな甘いものなんて、なかった。
サリーちゃん(@wocarinas)と茉紘。
これの続き、のような、何か……。