ヘルバウム

アルミリア
魔物棟訓練



「ヘル・バウム?」
 聞きなれない、否聞きなれてはいそうな言葉がラグナの口から飛び出て驚いた。私たち機械は食事の必要性がない。それでもバウムクーヘンという言葉とそれがどう言ったものではあるのかは知っていた。
「新種の魔物だとかなんとか。で、今日はそれを倒そうと思っているのですがご一緒にどうです? ふざけた名前ですがなかなか強いらしいですよ」
「ラグナの力になれるならぜひ」
 二人連れだって魔物棟の門戸を潜る。どんな魔物なのか少しワクワクしていた。

 それを目の前にした時、真っ先にわかったのはその匂いだった。味覚はないが、嗅覚だけなら感じることができる。ひどく甘い匂いがフィールドに漂っている。
「攻撃手段は?」
「今のところ確認されているのは転がる、のみです」
「……壊せばいいのでしょうか?」
「恐らくは」
 どこからどう敵を視認し、どのようにして動いているのかも全く持って不明なその大きくて丸い物体を見据える。まだこちらには気づいていないようだが、気づくと言ってもどうやって気づくのだろう?
「データスキャン、開始します」
 ひとまずラグナを強化する。彼女の強みである剣と今は収納されている足の剣、そして彼女の脚力を重点的に。ついでに魔物にもその目を向けるが、ただ外郭が見えるだけで内側は何も見えなかった。唯一、その真ん中に開いた穴だけはおかしな雰囲気を醸し出している。
「さっさと片付けましょう」
「ええ」
 ラグナが走り出す。さすがに気づいたのだろう、ヘルバウムはこちらに向かって猛スピードで転がって来る。あの質量であれば並大抵の人間や小さな種族は潰されてしまうかもしれない。非常に危険な魔物だ。
「私が正面で囮になります。ラグナは背後、または脇から!」
「了解」
 横にずれたラグナを見送り、視線をヘルバウムへ向ける。それは勢いをあげてこちらへ向かってくる。ほんの少しなら接敵していてもあの魔物を押しとどめられるかもしれない。
「シールド」
 駆動音ののちあたり一帯に魔力障壁を作り上げる。障壁とヘルバウムの接敵まで後五秒。四、三、二、一。
 ラグナが横から走ってくる。ヘルバウムはこちらへ気づかない。跳躍したラグナが二つの剣を穴の両脇に投げて刺した。ヘルバウムは魔力障壁とラグナの剣により若干動きがにぶる。上空へ舞ったラグナは両足から剣を出現させた。直上からまっすぐとヘルバウムに降りたラグナの剣は突き刺さる。
 とっさに私は走り出していた。背中の斧に手をかけ、ヘルバウムの横にずれる。斧を構えた。スライドする形でそのまま突進を続けるしかないヘルバウムの体に切り込みを入れる。衝撃を覚悟したラグナがとっさにその上から飛び降りた。ヘルバウムの体は真っ二つに割れ、その動きはゆっくりと止まった。
「討伐、完了でしょうか」
「おそらく。……剣から甘い匂いがする」
 抜いた剣を収めようとラグナがそれを手にした。もはや匂いには慣れつつあったが、確かに濃く甘い匂いがラグナの剣から漏れ出ている。
「これ、教師によるとそのまま食して良いらしいですが……」
「私たちは食べれないな」
 ただの甘い塊と化したヘルバウムを目の前に、ただ二人でたたずんでいた。

魔物棟訓練:ヘルバウム
ラグナさん(@homu_o)と共闘!
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