私は生まれた時、表情筋をつけられなかった。製作者が忘れたのか、余裕がなかったのか、何かの意図的につけなかったのか、それはわからない。そのおかげで私は生まれてこのかた笑ったことがない。口を大きく開けてゲラゲラと笑っている友人を見ると、少し羨ましくもある。表情が動かないせいで怖がられることも多々ある。
しかし。
表情筋が固まりすぎるのも問題だ、と目の前の気味悪い表情をした魔物を見て思う。その魔物の名は。
−−−HYAHHAAAAAAAA
耳を劈いたのは迷惑すぎる笑い声だった。初め、その魔物の口から出ているとは気づかないほどに見た目と声があっていない。手のひらを地面につけ這いずり回るようにこちらを向いている。
スマイルパピー。基本的には平和主義な魔物であり、攻撃方法をほとんど持たない。が、それが魔物と言われる所以はその表情と鳴き声だ。一種見たものにトラウマを植え付けるようなほどの凶悪な笑顔と、耳を壊さんとする笑い声。討伐自体はそこまで難しくないが、気味悪いことこの上ない。
一切微動だにしない私達としばし三十秒ほど見つめあっていたが、怖気付いたのか今度は二足歩行になって走り始めた。
「アル」
「はい」
無属性魔法で雑な竜巻を作り出した。その竜巻はゆうにスマイルパピーを飲み込み、そしてこちらへ移動させる。宙へ浮きながら竜巻の中で回転するスマイルパピーの表情は変わっていなかった。
こちらへ舞い戻ってきたところで竜巻を消すと、ラグナの前にぼとりとそれが落ちる。
「不愉快です」
ラグナの剣が容赦なく犬らしき顔の中央にのめり込んだ。異常に筋肉の発達しているそこは初めラグナの剣の侵入を拒んでいたが彼女の腕力には勝てなかったらしい。笑い声なのか悲鳴なのかわからない奇声をあげながら顔から血を吹き出して絶命したスマイルパピーを見て複雑な気持ちになった。それの四肢はもう、動きを止めてぐったりとしている。
「お疲れ様です」
「共闘するまでもありませんでしたね」
「……少しかわいそうな気もしますが……」
ラグナの引いた剣がスマイルパピーを解放する。笑顔をその顔に貼り付けたまま絶命しているスマイルパピーは死してもなお不気味だった。
「唐揚げにすると美味しいらしいですよ。また配りますか?」
「名案ですね。どの辺りを唐揚げにすればいいんでしょうか……?」
ラグナはその足を鷲掴みにして肩に担いだ。どこかで見た狩猟民族のような面影を残しつつ、その場を後にする。
魔物棟訓練:スマイルパピー
ラグナちゃん(@homu_o)と!