episode Carl
予想外の出来事



「ストント!」
 怒鳴り声に近い声音でその丸まった背中を呼ぶと案の定それはびくっと肩を震わせてこちらに振り向いた。
「はい……なんですか、カルルさん」
「あ? なんですかじゃねーよ。まーたしけたツラしてんな。つかお前何日ここにいいんだよ?」
 シャワーには入っているのだろうが、衣服は着替えていないのだろうか。よれよれの白衣はほんの少し臭う。薬品や工具が散らばった部屋はお世辞にも綺麗とは言えなかった。
「四日……くらいですかね」
「は? 寝ろよ」
「作業が……終わらなくて」
「だからテメェはストントって呼ばれんだろうが!」
「すんません……」
 全く感情がこもっていないのだろうその声は苛立ちを募らせた。舌打ちするとまたビクッと体を震わせた。一挙一動が人をイラつかせるなんて天才なんじゃないだろうか。背中をバシッと叩くとうっ、と小さく唸った。
「つか四日もこっから出ねぇとかたまんねぇの?」
「たま……?」
「アァ? テメェタマくらいついてんだろ!」
「す、すんません……」
「チッ……あ、つかお前もしかして……」
 肩に腕を回す。頬に魚人特有のエラが触れてくすぐったい。普通にシャンプーの匂いが髪から漂って、あ、やっぱりシャワーは浴びてんだなとどうでもいいことを考えた。
「童貞か?」
「え……あ、まぁ、そっすね」
「お前いくつだっけ」
「二百五十……ちょっとです」
「マジか! お前、マジか! 童貞なのか! クッソウケる」
 ゲラゲラと爆笑していてもヴィゴはあんまり気にしていないように視線を落とすだけだった。ひとしきり笑い転げたものの、自分にも童貞だった時期はあるわけで、なんだか少しいたたまれない気分になってしまう。
「いい加減童貞捨てたくね?」
「えっ」
 しかしからかうのはやめられない。デリケートな問題だからこそ突っ込んでこいつのあまり動かない表情を歪ませてやりたいとすら思う。少しくらい動揺すればいい。
「手伝ってやろうか、童貞捨てるの」
 口は耳元に、声はかすれさせて。クソ童貞にはこの程度でも効果はあるだろう。こみあがる笑いをこらえながら体を離す。すっかり動きを固めてしまったヴィゴに冗談だバーカ、と言おうと、した、その時。
「えっと……お、お願いします?」

「……は?」

 全く予想してない返答に驚いて今度は俺の声がどこかにいった。



部屋の戸をあけるとヴィゴが普段よりさらにラフな格好でベッドの上に正座していた。上はいつも着ているようなシャツ、下はボクサー一枚。やる気は上々といったところか。
「あ……」
 俺の姿を認識したヴィゴが何か言おうとして口を開いた。もちろんそこから気の利いた言葉なんて出てくるわけもなく、もちろん期待だってしていない。
「ちゃんと風呂入ったんだろうな」
「は、はい」
「下着新しいのに変えたかよ」
「はい……」
 ハァ、と長い溜息が漏れる。軽率に童貞にやろうか、なんて提案するものではない。めんどくさい。絶対気持ちよくない。そもそもやり方もしらないだろコイツ。近寄ってベッドに身を乗せると、ヴィゴはまたビクッと体を震わせて強張らせた。一歩近づくと一歩下がる。俺が止まればヴィゴも止まる。苛立ちが募って舌打ちをすると、また同じ反応をした。
「お前さ」
「は、はい」
「いい加減にしろクソが!」
 腕を伸ばしてエラをつかんだ。鱗と普通の人間とは違う色の肌が近づいて、重なる。枕に勢いよく倒れた拍子に、ばふっと音がする。はじめは触れるだけのキスで。ヴィゴが何かを言いたそうに口を開いたとき、それ以上喋らせなかった。舌を滑り込ませると口の中をなぞっていく。恐る恐るといった感じでヴィゴの舌も少しだけ動き始め、ゆっくりと絡まっていった。
「……お前もしかしてこれも初めてか?」
「あ……は、はい」
「マジかよ」
 手を下に持っていけばそれなりにゆるく反応していたそれがある。怯えたように震えたヴィゴの体をそのまま押さえつけて自分の体を移動させる。
「え……あ、あの、ちょ」
「ふるへ」
 ボクサーの上からブツを咥えた。ひっと小さな悲鳴をあげたやつの反応を楽しむように、ゆっくり布を通して愛撫していく。唇だけで挟み込んで全体を噛んだら、今度は舌を出す。ぴくぴくと小刻みに震えるヴィゴの反応は見ていて楽しい。これだよこれ、俺が見たかったのはお前のそういう表情。
「も、もういい、です」
「うるせーっつの。俺が教えてやんだから俺に従ってろ」
 パンツのゴムを口で引っ張るといきり立ったそれが姿を現した。そういえば電気をつけたままだったことに気づいて無属性魔法でパチンと消す。ベッドサイドのテーブルライトの、ぬるい光だけが残ってヴィゴを照らした。
「うっわ……」
 デッカ、とはなんだか男のプライドが邪魔して言えなかった。分かりづらいがヴィゴの顔が羞恥に赤く染まっているのがわかる。いい気味。鬼頭をツンと舌でつつくと体ごと震えた。面白い。左手を添えてとりあえず扱く。反応を見ながら口で咥えると、うう、と呻いた。
「か、るるさ……」
 ヴィゴの手が俺の髪に触れた。そこまでちゃんと固めていたわけではない髪ははらりと落ちて、前髪が垂れる。撫でるように、否、どちらかというとあやすように頭を撫でられてなんだかムカついた。
「い゛っ」
 軽く歯を立てるとその手はやむ。大人しくしてろっつってんのに。咥えながら腰を上げて履いていたズボンのチャックを下ろした。生理現象には逆らえることもなく、自分のものも緩く勃っているのがわかる。
「ん……ん、ふ」
 ズボンが脱ぎづらくて思わず吐息が漏れた。空中で行き場を失っていたヴィゴの手が今度は俺のズボンを引っ張って脱がせてくれる。
「しゅーちゅーひろって」
「あ……ぬ、脱ぎ辛そうだったから……う、」
 にしてもでかい。顎が疲れる。緊張しているのか、かなり限界まで達していそうなのになかなかイってくれない。いい加減疲れた顎を離して顔を上げると、すまなそうなヴィゴの顔が見えた。
「いい加減イけよ」
「す、すんません……」
 ため息をついて足元にまで下がったズボンを引っこ抜いた。Tシャツをたくし上げ、ボクサーを下ろす。それはしっかりと勃っていて、ほんのすこし恥ずかしい。
「身体起こせ」
 腕を引いてヴィゴを起こす。至近距離に近づいた顔はいつも以上に目があっちこっち見ている。引いた手の指をそのまま口に含み、かるく濡らすとその指を自分の尻まで持っていく。びっくりして腕を引っ込めようとしたのをなんとか押しとどめた。
「ほぐさねぇとそんなデケェの入んねぇよ。……わかるか? ここにはいんの」
 彼は勢いよくコクコクと首を動かして頷いた。恐る恐る侵入してきた指の異物感はいつだって慣れやしない。ヴィゴの肩に顔を埋め、ゆっくり息を吸って吐いた。薄い服からは柔軟剤の匂いがする。
「あの……痛くないすか」
「ん……もうちょい、はやく」
 ぬぷぬぷとただ出し入れをしているだけのそれは気持ちいいわけもない。童貞だから、とさっき多少ほぐしてきてよかった。長くて太い指が徐々に奧へ侵入して、吐息が漏れた。触れたヴィゴの体はガチガチに固まっていてなんだか面白い。
「ぁ……う、んんっ」
 いいところをちょうど指がかすって、短い声が漏れる。ヴィゴのあいている方の手がむやみに腰を撫でた。体が震え、矯正が漏れかける。クソ、ストントのくせに。
「もういい」
「え? でも……」
「もういいって。そろそろ挿れたいだろ?」
 指先でヴィゴのものをツーっと撫でると、顔はすぐ快楽に歪んだ。もういい、という言葉に従ってヴィゴの指がずるりと抜かれた。ひときわ高い声が漏れた。
 立ち位置を反対にして、枕を背にベッドに寝転がる。恥ずかしげもなく股を開き、左手とヴィゴの右手を繋いだ。
「オラ、来いよ」
「あ……えっと」
「場所わかんだろ? さっさと挿れろ」
 近寄ってきた体と、恐る恐る左手であてがわれた熱いモノに心臓が少し高鳴る。右手をヴィゴの顔の横へ運び、すりすりと撫でた。雰囲気もクソもないけれど下手に緊張されるよりかはちょうどいい。
「い、いきます」
「ふっは、なんのせんげ……んっ」
 指が入ってくる感覚だっていつも慣れないのに、普段の野郎よりもデカいものが入ってくる感覚はどう考えても圧迫にしかならない。思わず止めていた息を吐き出す時にはもう、切ないうめき声がもれずにはいられなかった。
「ふ、ん……ぁっうんんーーーっ」
「あ、あの、やめますか……?」
「ばっっか、とちゅ、で止めんな!」
 背中をげしげし蹴ると慌てたヴィゴが挿入のスピードを早める。一気に奥まで挿れやがったせいでしばらく息ができなかった。
「っ、う……カルルさん、大丈夫、すか?」
「っは、あ……加減を……知れよ……バカ……」
 背中が仰け反る。繋いだままの手を強く握りしめていた自分に気づいた。少しだけ腰を動かしているヴィゴが切なげな表情をこちらに見せた。だいぶ落ち着いた息の中、口元だけを動かす。いいよ、と。
「んっ、あっ、うぁ」
 ぎこちなく動き始めたそれは全然気持ちよくなんかなかった。普段慣れてるやつとやってたほうがぶっ飛べるし気持ちいい。なんかずっと出し入れされてるだけって感じがする。もっと時間かけてやればよかった、とか下手くそ、とか言ってやりたいことは山ほどあれど、必死に腰を振っているヴィゴを見るとなんだか言えなかった。
 繋がったままの手はお互いが強く握っていて、空いているヴィゴの手は俺の腰を持つ。揺らされる反動で声が漏れた。ヴィゴの少し乱れた息遣いがやけに大きく聞こえた。
「あの……イイ、っすか?」
 恐る恐る尋ねたヴィゴにふっと笑う。反動に身を任せて頷くと、動かし方のコツを理解したのか動きはスムーズになる。デカいそれは中のいいところを掠めはじめた。無意識に我慢した声が漏れ出て下半身に力が入る。気づけば腹に漏れ出た我慢汁が垂れていて少し冷えた。矯正は絶えず口から漏れ出して、少し恥ずかしかった。
 気持ちよくもないはずだったのに、そこから達するまで時間はかからなかった。結局最中、手はずっと繋いだままだった。

ヴィゴさん( @crjuil )とこうどうにかなっちゃった話。

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