episode Ley
意地悪な彼女


「ラ、グナさ……っ」
 慌てて背中についた手が滑り、机の上から何冊か本が落ちた。バサバサと落下する本の音が耳に入った。それよりも早く、口が塞がれる。侵入してきた舌が逃げる俺の舌をすぐに絡め取って口の中でうねる。彼女の左手は俺の後頭部に、右手は腰に添えられている。
 右手がゆっくりと腰を撫でた。甘い痺れが徐々に全身に広がっていく。彼女の長い足が股の間にねじ込まれ、ぐりっと股間が圧迫された。思わず声が漏れる。彼女の舌はまだ俺の口を解放しない。
「んっ……、ぅん……っ」
 逃れようにも彼女の力の強さには勝てなかった。完全に逃げ場を奪われ、もがけばもがくほど拘束する力が強くなっていくようだ。息継ぎがうまくいかない。処理が追いつかなくなった唾液が口のはしを伝った。
「……大丈夫ですか?」
「っ、はぁ……大丈夫に、見えますか……っ」
 ようやく解放された口は息をするのもやっとだ。アンドロイドの肺活量はどうなっているんだろう。そもそも肺という器官は存在するのか? そんなどうでもいい思考だけで頭が回っていく。いつまでたってもこの行為にはなれない。
「!? ちょ、ラグナさん……!」
 彼女は俺の様子をじっくりと観察しながら下をまさぐり始める。慣れない感覚に身をよじってもラグナは逃してはくれなかった。キスを迫るように顔を近づけられ、思わず顔を背けた。少し拗ねたような表情を見せた彼女が握る手に力を込める。少しの痛みに顔を歪めると、その手はゆっくり上下に運動を始めた。彼女の手には温度がないようだが、自分の熱と混ざってよくわからなくなった。
「レイ」
 いつのまにか耳もとに移動していた彼女の口から、少し低い声が響く。吐息とともに囁かれたその声に腰が砕けた。また甘い痺れが全身に広がった。腰が震え、立っていられなくなる。
「も……、やめ……っ」
 変な声が出そうになって奥歯を噛みしめる。短い唸り声が幾度も漏れた。ラグナはずっとこちらを見つめている。……そう、思う。視線は感じるのに目が見えないのは少し、なんというか、悲しい? いや、寂しい。寂しい、これだ。あまり頭が働かない。いつのまにか彼女の腕にしがみついていたらしい右手を外して彼女の目元に指を這わせた。
「……どうされました」
「目……、みたい、です」
 頭がぼーっとする。少し間が空いて、彼女の手が俺のものから離れた。名残惜しさを感じながらぼんやりと彼女を見つめていると、彼女は手をポニーテールの根元にやって目元のマスクを外した。一緒にポニーテールが崩れ長い銀のような白い髪が幕を降ろすように降りた。足先に揺れた髪の毛が触れてくすぐったい。
「満足ですか?」
 赤い目だ。まっすぐにこちらを見つめる澄んだ目が少し欲情して濡れている。彼女がマスクを外しているところを滅多に見たことがない。彼女の指先が再度俺のものに触れる。またゆるくこき始めると同時に、顔が近づいた。今度はその目に惹かれるように舌が出た。素直に受け入れたのが嬉しかったのか最初のキスよりもそれは激しくなっていく。太ももの内側が痙攣する。
「あっ、う、んっ、ら、ラグナさ……っんんっ」
「ラグナでいい」
 普段より強引な言い方にすら脳裏が痺れていく。抜く手の動きが早まった。達する前の感覚が下半身に登ってきて無駄な力が入った。立っていられなくなる。すがるようにラグナの首に腕を回した。空いている方の手で、汗で張り付いた俺の前髪をかき分けた彼女がふわりと笑った。
「ぁ、あ、ラ、グナ……っ」
「イって」
「ひぁっ……や、ま、んっんんんっ」
 足の指先まで痙攣がほとばしった。彼女の手の内側に欲を吐き出す直前、勢いよく彼女の唇がまた俺の口を塞いだ。声にならない声が喉の奥から、欲と同時に溢れ出す。乱れた息を整えながらゆっくり唇を離すと彼女は満足したように笑った。
「良かったですか?」
「……ノーコメントです」
「ちゃんと脳内に保存されてますが」
「離れてください」
 きっと耳まで赤くなっている顔を見ている彼女の顔は、もっと意地悪でにやけているのだろう。


ラグレイ(@homu_o)

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