私が消えたら
君は気づくかな



「私が消えたらおじさんは気づくかな」
 時折考えることが自然と口をついて出た。この世界に本来必要のない人間として生まれてしまった私が、消えて気づく人なんているだろうか。
 例のごとくきな臭い心霊事件の捜査の途中。張り込み続きで頭が馬鹿になっていたのかもしれない
「突然どうした」
「いやなんとなくね。てか忘れて」
 今回の事件が失踪事件だから、とか適当な理由はつけられたけどそれもどこかめんどくさくてやめた。あの言葉が私の純粋な疑問であることに変わりはないのだから下手に取り繕わなくてもいい気がする。
「おまえが消えたら誰と捜査に出ればいい?」
 なんてことのないように隣の人はいう。
「そんなの、腐るほど霊能力者はいるでしょ」
「俺はじゃじゃ馬に慣れすぎちゃったの。だからもうお前じゃないと無理。ま、上の命令だったら従うけどな」
「……そんなの、勝手すぎる」
「お前が消えるのも勝手過ぎる。勝手が嫌なら消えるな」
 彼の大きな手が頭に乗った。嫌だなぁと思う。こんなふうに扱われては、感情がどんどん漏れていってしまいそうで、怖い。……怖い。
「消えそうになったらなんとかしてくれんの?」
「できることなら、な」
 できない約束はしない。彼はそういう人だった。いつだって自分に正直で素直に生きている。
 縋りたいと思ってしまう。全てをさらけ出して受け入れてほしいと思ってしまう。それは他人への傲慢に等しい。
 私は間違えたくない。失いたくない。だから、どうかその大きな手は私に差し出さないでほしい。

ダニエルとニーナのはなし



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