動かない葉っぱ


魔物棟訓練 コノハウオ


 先生と出会ってから、ほんの少しだけ強くなるということに意識を向けるようになった。魔物棟で訓練可能な魔物を掲示板で探す。ふと、そこであることに気づいた。
「……戦闘手段が、ない」
 僕は武器を持っていない。否、実家でクナイの扱いを習ったものの扱えるようにはならなかった。それ以降、実践訓練をほとんどサボって回避してきたせいか、いざとなると戦う手段を持ち合わせていなかった。
 これじゃあ先生を守るなんて絶対できない。でもどうしたらいいのだろう。
「亞くん?」
 悩みこんでいたところに声がかかる。バッと顔をあげると影のような少女……サファイアがそこにいた。もの好きで僕みたいなやつにわざわざ構ってくるような人。本当は少し感謝しているけれど、できれば構わないで欲しい。きっといつか迷惑をかけてしまうから。
「どうしたの? ……魔物棟?」
「はい。その、少しは自分も力をつけておきたいと思って……でも」
 僕の見ていた掲示板を見た彼女は察したようで、亞くんには何がいいかな、と選んでいる。彼女もそれなりにこの学園で生きているのだから戦闘手段は持っているのだろうけど、直接見たことはなかった。
「さ、サフィ、さん」
「ん? なに?」
「いつもどうやって戦ってるんですか」
 優しげなオッドアイが一度ぱちくりと瞬いてにっこり笑った。毛先だけが赤い髪が耳と一緒に揺れる。
「私は金属性だから根本的には違うかも知れないけれど、基本的にはこの武器を使うかな。亞くんは武器持ってないんだっけ?」
「もってない、です。扱える自信もないから」
「そっか*。弱体ならそれだけで十分強いと思うけど、あとは無属性魔法使うしかないんじゃないかな」
 無属性魔法。魔法の扱いは体術より得意ではある。戦うこと自体が苦手であることは違いないのだが、今はそんなこと言ってられないだろう。頷いた僕を見たサフィは微笑んで一つの魔物を指差した。
「この魔物なら亞くんでもできると思うよ」
「……コノハウオ?」
「そう。ほとんど害はないはずだから」
「……わかりました。ありがとう、ございます」
「いいのいいの! 頑張ってね」
 手を振って遠ざかって行く彼女の後ろ姿は瞬きをした合間に影に吸い込まれたようだ。不思議な種族が多いここでは驚くことも多い。

 コノハウオ。詳細はよく知らないが、名前の通り葉っぱの魚のような魔物だ。魔物というより小動物……虫に近く分類されるのではないだろうかと見たときには思ったが、魔物棟にいるくらいなのだからそれなりの魔物ではあるのだろう。
 目の前に出現した数十匹のコノハウオの大群に、さぁどうしようかと考えあぐねいた。戦闘能力、防御能力はともに最低だから手ではたき落としても倒せそうなものだが……。
「……弱体、か」
 それだけで十分強い、と彼女は言ったけれど僕にはまだ使う勇気がでない。実家では火属性以外が生まれることなんてほとんどないのだ。僕には種族の特徴である炎も使えないし、ああ、やっぱりなんだか。僕は臆病者だ。
「……ヤァッ」
 意識を集中して手の中から風を起こして行く。空気中の魔力を調整し、掴んで動かす感覚。空気が動いて空中を漂っていたコノハウオの隊列が崩れた。地面にバサバサと落ちるコノハウオは、純粋な落ち葉のようでなんだか屋外にいる感じがしてしまう。
「……ほんとに簡単」
 僕でもできるもの。本当に簡単だった。攻撃もしてこなかったし落とせば死ぬからかもしれない。しゃがみこんで一枚の死体……と言っていいのかわからないものを拾い上げた。それはただの葉っぱのように沈黙している。

サファイアちゃん
( @sanma_tti )お借りしてます
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