走る。知り合いの、いや、知り合いでなくてもいい。木属性か医療の知識があるものを。視界が悪く、走るのもおぼつかない。焦りのせいで魔法も上手く制御できていなかった。自分がいま走っているのか飛んでいるのか、実のところよくわかっていない。
人が増え始めた。すれ違った生徒たちがざわつく。左目から血を流していればそりゃあ、少しは怯えさせてしまうのかも知れない。
「あれ、レイさん? ……どうしたんすか!?」
「君は……弟さんか。ちょうどいい、目を治してくれ」
緑の髪色。兄とよく似ているものの、お互いの性格は正反対な彼が目の前に飛び出してきた。つかみかかる勢いで頼み込むと驚いた彼はひとまず俺を避難所まで誘導する。
「一体何が……」
「……いい、説明してる時間もきっとないだろう。すぐ治してほしい、君は……ああ、悪い、そういえば木属性じゃなかったな。他の人に……」
「大丈夫、俺も治せます」
頭の中がひどく混乱している。優しげな微笑みとともに、落ち着いて、と言われれば、今度は痛みがぶり返した。心臓の鼓動が早い。動きに合わせて傷が痛んだ。
「……レイさん、視力は、もう」
「わかってる。大丈夫だ、覚悟はしていた。とりあえず忌々しい痛みを取ってくれればそれでいい」
落ち着かせるために心臓に手を当てた。息を吸い込む。……ん?
胸元に下げていたそれは手のひらの下でその質量を主張した。誕生日にもらったそれをつけるのは習慣化していて、気づけば体の一部のような気がしていた。俺によく似合うと思って彼女が作ってくれたもの。そうか、視力がもうないのなら。
「君は何属性だったか」
「? 金属性だけど……」
力づくでチェーンを引きちぎった。目の前にそれを持ってくる。
「……これを、目に嵌められるか」
彼の、何度目かわからない驚きを隠しきれぬ表情が目の前に現れた。