ただ呆然と目の前の景色を眺めていた。
信じたくはない。だって帰ってこれると思っていた。否、帰ってきてはいる。皆が思い描いていた状況じゃないだけだ。
「っ、小晶は……!」
すぐにこちらへきたせいであの子と合流する時間がなかった。もう向こうへ行っているのかもしれない。水場に向かってかけていく。足を踏み込んで飛び上がった。
*
戦闘支援型アンドロイドA-1、アルミリア・バーナード。
私はこの世でたったひとつしか作られていない。私のみを作って製作者は諦めた。私はこの世でたったひとつ。
群がるかつての生徒だったものをかろうじて斧で斬っていく。戦闘能力は低く、私の斧でもあっさり地面に伏していた。一つだけ、体を真っ二つにしても動けるものは動くことを理解する。木っ端微塵にするまでその活動は止まらないのだろう。
私に戦闘能力はない。できるのは敵と味方、及び殆どの物象のデータをスキャンし分析することのみ。機能性について。データ統括については問題ない。念の為の武器として斧を所持しているものの、かなり軽量化しているため殺傷能力はぬるい。魔力の扱いは得意の部類に入るものの、攻撃魔法はさほど習得していない。
「キリがない……!」
一体を切り刻んだと思えばすぐにもう一体が出て来る。何回切ってもその死体は無尽蔵だ。……それほど、この地で生徒が死んだのだろう。
以前、強化の授業で習ったことがある。強化は何もサポートするだけのものではない。対象の体の細胞に負荷をかけ、その活動を活性化するのが原理ならば、敵に対して行っても同様の効果を見込むことできる。いわゆる、強化のかけすぎだ。活性化しすぎた細胞が体の中で暴走し、最終的には体が爆発する。やったことはないけれど、理論ならわかる。
これだけの量を一つ一つ斬るのはきっと無理だ。だから、私にできることをする。
「データスキャン、開始します」
対象は私を取り囲む数多のゾンビ、スケルトンたち。彼らの腐敗した体の中を覗く。息を吸い込んだ。目を瞑る。その方がよく見える。
「壊!」
掛け声とともに送り込む魔力を増強していく。体が膨れあがりほぼ同時に破裂した。一瞬の音ののち、静寂が訪れた。
学園東側の森の中。目に見える範囲の動くものは消え去った。無駄に足止めされてしまったから早く小晶を探さないと。
そのとき。耳に聞き覚えのある声が入った。木陰にちらついたのは薄紫のお団子頭、アッカの制服。よかった、彼女は無事だった。
「小晶−−!」
彼女の元へ駆けよる。声が届いたようで振り返った彼女の表情が明るくなった。
そこからはもう、なんだかスローモーションの映像のようで。
地面が揺れた。勢いよく飛び出した巨大な虫に、目は極限まで開き切った。私はまだ小晶の元へたどり着かない。虫の矛先はあの小さな体だった。あまりにも突然のことで反応が追いついていない。悔しいほど綺麗に私の目は捉えてくれる。とっさに自分の足に強化を施した。軽くなった体を滑り込ませる。視線は小晶から離さなかった。彼女の体に指先が触れる。腕が彼女を抱きしめる。
衝撃は、その直後だった。
感情は健在。嬉しい、悲しい、楽しい、怒り、すべて私の中で判別がつく。紛らわしい曖昧な感情もまた、私は根本的に理解できないということを理解している。感情とは理論ではなく、感じるものである。
しかし痛みは感じない。恩人の顔が驚愕に固まるのが見える。目の端には蠢く巨大な虫の姿。食べられた。破壊された。この子を残して。いや、まだ左側は無事。大丈夫、それに、この子は、私がいなくても強い。最後の力を振り絞った。小晶が怪我をしなければいい。
視覚システム低下。聴覚システムロスト。嗅覚システムロスト。運動機能、急激に低下。警告、早急なシステム復帰。魔力が体から逃げていく。遠いところで彼女の声が聞こえた気がした。
私は、戦闘--gアンdrロイドA-1、アるm理ア・バーナ9d。
動作停止。思考システムの保護、九十パーセント完了。心臓コアをロック。魔力の漏洩阻止。
誰かを助け、守るためにここにいる。
小晶(@_mizugumo)