「そういやミケって卒業とかどうするつもりなんだ?」
いつも通りの放課後。一緒に商業棟で買い物をした後、すっかりいつものパターンになってしまったファストフード店でポテトをつまんでいた。何気ない会話の途中でふと思いついたことをミケに聞くと、ちょっと驚いたような顔をしたまま黙ってしまった。
「……んー、くおりんは?」
「俺? 俺は……」
自分がどうしたいのかすらあまり明確にはなっていなかった。ただ、この狭い世界を抜け出してもっと広い世界を飛び回りたい、だとか。クソ野郎の世話にならなくてもいいくらいの能力を身につけて自立して生きていきたい、だとか。そういうごく普通の目標くらいしか俺にはない。
「もっとたくさん世界が見てぇな。ずっとアイゼンの、狭い裏路地にしかいなかった。ここに来て俺の知らない種族とか知らない国とかたくさんあるって知ったから」
その返答がミケには意外だったのか、そっか、と言ったきり何か考えるように黙り込んでいる。聞かないほうがよかったか、と思いながらもポテトを一つ口に放り込む。
「それだけ?」
「あ? ああ。それだけ。今の所はな」
ようやく口を開いたと思ったら、やっぱりミケはそれしか言わない。
「別にそんな重く考えなくてもいいんだぜ。今すぐ将来のこと決めろっつってるわけじゃねーし。単純に俺の興味だっただけだから」
「……ミケは、帰る場所がないから……」
ポツリ、と喋り始めたミケの口元を見つめる。
「帰る場所がないから、卒業しても行く場所なんてないって思ってた。だから……ミケは卒業しなくていいやぁって思ってる」
「俺だってない」
帰る場所なんて最初から持ち合わせていない。クソ野郎の屋敷にいたのは数カ月程度だったし、アイゼンで定住した場所なんてなかった。もし今、クソ野郎にもこの学園にも見放されたらまた路頭に迷う生活に戻ってしまう。
「そんなことないよぉ、くおりんはちゃんと……お父さんがいるじゃない」
「あいつを頼る気は無い。さっきも言ったけど、俺は自立するためにここにいるんだよ。あいつの元に戻る気も、あいつの元で生きて行く気もねえ。俺は俺のしたいことをする」
それでも俺は、この先の帰る場所にクソ野郎の屋敷を選ぶことも、この学園を選ぶこともしたくない。ここにいるのはクソ野郎が選んだことだ。俺が選んだことじゃない。とはいえ、もちろん感謝だってしている。ここに来なかったら俺はなにも知らないままだった。俺にも仲間ができること、友達ができること、魔法が使えること……。今の状況はどうすることもできないなら、これを全部俺の糧にして好き勝手生きてやりたい。
「なぁ、ミケはこんな狭いとこにいていいのか?」
「……そんな、こと……」
俯いたミケの、机の上に出された手をそっと握った。俺の手のひらの中で弱々しく手が震えた。
「ミケに帰る場所がないなら俺と帰る場所作りに行こうぜ」
「作る?」
「おう。いろんなところ見て、ミケがここがいい! ってところにいればいい。なににも縛られない、全部自分で決めろ。俺も自分で決める。だから、決められるまで一緒にいればいい」
一緒に居たいなら、一緒にいればいい。次いで出そうになった言葉を慌てて飲み込んだ。その言葉はきっとミケの将来を狭めるだろう。俺の人生を選ぶのは俺だし、ミケの人生を選ぶのはミケだ。
「どんなところでもいいの?」
「おう。俺が先に見つけてもミケが見つかるまで一緒に探してやる」
不安そうなミケの表情が徐々に笑顔に変わっていった。手のひらと手のひらが合わさって、指が絡む。
「覚悟しててよねぇ、くおりん! ミケは優柔不断だからぁ!」
「連日のショッピングで嫌という程わかってるよ」
いつも以上に明るくなったその笑顔がずっと続けばいいと思っていた。
まだ不確かな俺とお前の未来の話
プロポーズに似ているはなし。