甘い匂いが学園中を支配しているかのような錯覚に陥る。それほど、今日は誰もが主に赤いパッケージのお菓子を手にうろついていた。すでに何回かその中身……ポッキーと言われている細長い、クッキーにチョコがコーティングされたお菓子をもらっている。甘くてサクサクしていて、とても美味しい。
「くおりん、ポッキーゲームしよぉ」
 今もまた、もらったばかりのポッキーを口にくわえてもぐもぐと咀嚼していた。こういうイベントごとは大好きなミケが案の定、赤い箱を持って目の前に現れた。
「ポッキーゲームってなんだ?」
「えっとねぇ……」
 説明を加えながらミケの腕が俺の腕に絡まる。ミケの足はどうやら人気の少ないところを目指しているようで、ポッキーゲームがなんたるかについて説明しているうちに周りの生徒はほとんどいなくなっていた。
「……こんな感じぃ! わかったぁ?」
「わかった、けど。俺とすんの?」
「うん! みゃこに教えてもらったぁ」
 何を、とは言わなかったせいで聞けなかった。箱の中の袋から一本、ポッキーを取り出したミケがクッキーの方を口にくわえる。
「ほいほー」
 ミケが喋るとくわえられたポッキーは上下に揺れた。くわえろ、というようにもう一度ミケがん、と唇を突き出した。仕方なく口を開けてチョコでコーティングされたそれをくわえる。
 ポッキー一本の距離に近づいたお互いの顔にどうにも少しの恥ずかしさを感じながらぽりぽりと食べすすめていく。飲み込むのが間に合わなくなったポッキーのかけらが、口の中に溜まっていった。遠くの方で生徒たちの馬鹿騒ぎの声が聞こえる。
 ポッキー一本、というのはなんとも短いものだと思い知らされた。どんどん近くミケの、顔や目を直視できなくなって視線を唇に落とした。しかし猫のように動くそれを見ているとさらに恥ずかしさが増していく。徐々に近づくお互いの顔の距離に、心臓は跳ね上がっていた。
 それがどっちからだったのかはわからない。パキッという微かな音とともに俺とミケをつないでいた柔いお菓子は折れた。その頃にはもうミケの顔は直視できていなかったから、すぐに顔を離して背ける。熱が集まっている。改めてこんな静かな場所でお互いの咀嚼音を聞いていることがこんなに恥ずかしいなんて知らなかった。自分の中のキャパをオーバーするほどの羞恥に、顔が耳まで真っ赤になっていることはわかっていた。
「あー……」
 残念そうなミケの声を聞きながら、残ったポッキーを飲み込んだ。ミケが今、どんな表情をしているのか確認する余裕はなかった。

味なんてもうわからない

2017ポッキーの日の話

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