付き合う前のクオミケで曖昧な10の愛情


矢凪屋の庭様より。

01 ガラス越しに垣間見る

 訓練棟で行なっていた模擬戦闘を終え、気だるさを孕んだ体を引きずりながら商業棟を歩いていた。今日はだいぶ勝ったから、甘いものでも買ってご褒美にしよう、なんて考えている。浮き足立った足は少し軽くなったみたいだ。
 ふと目をやったブティックの先に見覚えのある姿を捉えた。あの特徴的な姿はミケだ。引き連れていたアイボ、デルタがぼやく。
「ミケじゃねえか。いつもみたいに買い物かぁ?」
「そうみてぇだな。暇なら一緒に……?」
「誰かといるみたいだぞ」
 ミケの楽しそうな横顔の先に、一人の男の子がいた。確かミケと同室の樹和。目を隠すほどの前髪とマッシュヘアが特徴的だ。二人は洋服を見ながら楽しそうに会話している。
「話しかけにいかねえのか?」
「ん……別に、誰かといるなら暇じゃねえってことだろ」
 あれ? その瞬間の心情を言葉にするのはひどく難しい。俺にはそこまでの頭がない。強いて言うなら、何かで心臓を殴られたような。そこに開いた穴に鉛を入れられたような、そんな感情だった。よく分からない感情に支配されかけた胸をぐしゃっと握った。
「どうした?」
「別になんでもねえよ。もう黙れ、お前」
 腑に落ちていないようなデルタをよそにその場を離れた。甘いものが食べたいだけで、別にミケに会いに来たわけじゃない。ミケが他のやつと一緒にいるなんて別に珍しいことでもないのに。
 なんでこんなに胸のあたりがもやもやするんだ?

02 ただ微笑んでいるだけで
「お前、いつも笑ってるよな」「そうかなぁ」ミケはそうしてニコニコと笑う。ほらそういうの、といくら言ってもきっとミケは気づかない。別に悪いとかそういう話じゃなくて、純粋にミケの笑顔は好きだった。何度でもこの顔は見ていたい。どちらかというと、その笑顔は俺を幸せにしてくれる気がする。

03 こんなことを言ったら、叱られるかな?
俺とミケの関係を明文化するには、なかなか難しいということを最近知った。言葉にしないほうがいいものもあるんだと誰かが言っていたけれど、それは俺とミケの関係にも適用されるんだろうか。時折全てぶちまけてしまいたい衝動にかられる。彼女がそこにいるからこそ、繋ぎ止めたい。好きだよ、なんて。

04 俺を癒してくれるのはお前だけ
嫌なことがあった時。何か、こう納得できないことがあった時。どうしても会いたいと思ってしまうのはいつもミケだった。別に愚痴を言うわけじゃない。ただ、ミケに会っていつも通りくだらない話をしてそれぞれの部屋に帰ればいいのだ。あの甘い声で、くおりんと呼ばれるのに慣れてしまったのはいつからか。

05 哀しい記憶を分け合って
彼女に、俺の知らない過去があるのは当たり前だと思っている。それを俺が知る権利はないと思うし、ミケが話したがらないのであれば無理に聞きたくない。それでも時折、ほんのふとした瞬間にミケの、若干卑屈な部分を見てしまうとどうすれば救ってあげられるのか、自分の無力感に苛む。俺にできることは少ない。

06 こんなにも君は美しいのに
戦っている時のくおりんはかっこいい。揺れるポニーテールも、ギラギラと光る蒼い目も、艶やかに動く四肢も、綺麗だった。魔法を使うのは少し苦手だけどそれを補う身体能力で魔物を薙ぎ払う姿は見ていて、楽しい。それでもくおりんはミケにその姿を見せるのを躊躇うのだ。どんな姿も嫌うはずないのに。

07 俺だけのもの
一緒にいて特別何かをするということはない。ただ隣にいて各々のことをしている時もあれば、今日授業であったことを話したり、具体的に今日なにをしたのか?と聞かれても答えられないだろう。それでもその端々に映るミケの、普段見せないような表情が俺にとってはひどく愛おしく思えて仕方ないのだ。

08 孤独の夜は、共に涙を流して
自分が孤児であることを、自覚する時というのはひどく孤独な夜だった。そういう日は決まって部屋を抜け出して夜空を眺めに出て行く。まるで感情がシンクロしているかのようにミケを見つけると寂しさは一瞬で消え去ってその姿が闇夜に飲まれないよう、必死で繋ぎ止めたくなってしまうのだ。きっとそれは、

09 金縛りの朝も
脳が覚醒したと同時に体を動かそうとするとまるで動かないことに気づく。何だろう、と冷静に考えながら目を開く。ほのかな朝の光の中に、見覚えのあるオレンジの三つ編み。何だよ、と笑うと、えへへ、と彼女が笑っていた。解放された体で彼女を布団の中に引き摺り込んで、二度寝でもしようか

10 最期は俺の名を呼んで
ミケの居場所を探してやる。そんな約束をしたのは記憶に新しい。ミケとともに卒業したあとも一緒にいたい。ミケにとって大切な居場所が、俺になればいいのに。人生の最後に、ミケが隣にいてくれたらどんなに幸せだろう。きっとこれが大切という思いなのだということに、ようやく気づき始めていた。

こちらでは140字SS名刺画像にしております。


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