ピンクのリボン

クオリア
愛を伝える一日


「くおりん! チョコつくろぉ!」
 部屋のドアをどーんと開けて大荷物のミケが入ってきた。同室のカノンも出かけていてぼんやりと過ごしていた俺は思わず飛び起きる。
「びっくりした……どうした? 突然」
「なんかねぇ、そういう日らしいよぉ!」
「お、おう……」
 ミケはさっさと荷物の中身をキッチンに広げていく。レシピ本から調理器具、材料に至るまで。彼女は全部揃えて持ってきていた。
「準備いいな」
「うん! くおりんと作りたいと思ってたんだぁ」
「そうか」
 横に並んで手元を覗き込む。嬉しそうなミケを見ていると俺も嬉しい。腕まくりをしてよし、と気合を入れた。料理などほとんどやったことないがなんとかなるだろう。
「よっしゃ、よくわかんねぇけどやってやるぜ!」
「くおりんさっすがぁ!」

「……で、何すればいいんだ?」
 なかなかに前途多難のようだ。



 なんだかんだとおかし作りは体力がいるらしい。ミケはレシピ本の中身を全部つくる! と意気込んでいて、実際にほとんどのレシピを試してしまったような気がする。制覇しなかったのは材料がなくなったからだ。
 机の上にずらっと並んだチョコの山を見てヘトヘトになりながら座り込んだ。
「いやぁ。作ったな」
「だねぇ」
 隣にぺたんと座ったミケのアシンメトリーなツインテールが揺れた。心底楽しそうな彼女を見ているのはこちらまで幸せになる。無言で頭を撫でるとえへへ、と微笑んだ。
「あ、そうだ」
 立ち上がって机へ向かう。ほとんど使うことのない机の上は綺麗なものだったが、引き出しの中身は見れたものではない。その中でもそこそこ綺麗な一番上の引き出しを開いた。ラッピングされた小さな箱が顔を出す。先日買っておいたそれを取り出してミケに向き直った。
「どうしたの、くおりん」
「えーっとなんだっけ。愛を伝える一日? とりあえずこの前、商業棟いったら見つけたから」
 差し出した小さな箱を彼女は両手で受け取った。
「開けてもいい?」
「もちろん」
 恐る恐るといったようにミケは箱を丁寧にあけた。そんな、まるで宝物かのように扱われると恥ずかしい。高級なものでも特別なものでもなんでもない。ただミケに似合うと思って買っただけなのだ。
 箱の中から取り出された二本のリボンを見て彼女はひどく嬉しそうな歓声をあげた。俺の髪色とよく似たピンクのリボン。ミケのツインテールの根元につけたらきっと似合うだろうと、思わず手が伸びていた。普段は入らない店で買うのは少し緊張したけど、好きな人へのプレゼントなら全然構わなかった。
「くおりん、これ、つけて」
「お、おう」
 リボンを受け取ってミケを引き寄せる。少し震える手で恐る恐るリボンを結んだ。実を言うと、蝶結びは練習したのだ。自分でミケの髪にリボンを結べるように。
「ん、できたぞ」
「ありがとぉ!」
 立ち上がって姿見を覗き込んだミケは満足げに笑った。色々な角度から揺れるピンクのリボンを眺めているミケの後ろ姿が可愛くて、そっと腕を回す。
「く、くおりん?」
 少しだけ緊張したかのようなミケの体を抱きしめて肩口に顔を埋めた。
「くおりん」
「んー」
「ありがとぉ」
「おう」
 なんでもない会話、なんでもない日。たとえどんな風習があっても二人でいられたらその日はいつも特別になる。

2018バレンタイン
(@jJSQNOnDxELEzOK)
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