愛とは

アルミリア
愛を伝える日



 この学園にきて、小晶に拾われてから最初に覚えさせられたことがある。彼女の髪の毛の梳かし方だ。いつも使っているらしい香と、特別な素材の櫛を使って彼女の髪を撫でるように梳かしていく。彼女と出会ってからほぼ日課のようなものになりつつあった。
 愛を伝える一日、それは愛している人に贈り物をする日だという。その噂を聞いてからすぐに思いついたものはこの二つだった。
「アル、今日もわらわの髪の手入れをしていいぞ」
「ええ」
 背中を見せてウキウキとした雰囲気を一切消さない彼女が目の前に座る。普段のお団子から解かれたサラサラの髪をそっと包んだ。いつ触っても触り心地がいい。
「……ん?」
 普段と違う香を使っているのがすぐわかったのか、彼女はこちらを振り返った。
「いつもと匂いが違う」
「今日は、愛を伝える一日だそうで。……ほら、おとなしく前を向いてください」
「う、うん……」
 素直に前を向いた小晶の髪の毛を引き続き梳いていく。
「あなたに贈り物をしようと思って、新しい香と櫛を買ってきました。お気に召しませんでしたか」
「いや、いや。わらわはこの香、好きじゃ」
「そう、よかった」
 沈黙が訪れた。彼女の髪を梳く音だけが響く。頭の中で、胸の中で、いろんな感情が渦巻いていく。彼女に拾われなかったら私はどうなっていただろう。この学園に今でもいたのだろうか。あれほど多くのものを見て、感じて、知ることができたんだろうか。彼女は間違いなく恩人だ。どうしようもないくらい守りたい。
「小晶」
「なに?」
「いつか、貴方の名前を教えてくださいね」
 小晶という名前は本名ではない。あっさりと名乗るが、彼女の本当の名前を知っている人はこの学園にいないのかもしれない。名前は特別なのだ、と彼女はいつも、この話題になると言う。いつか名前を教えてもらえるほどの特別になれたらいいと願っていた。その感情の名前は、わからないけれど。
「それまで私は貴方を守ります。命を賭してでも。貴方がいなければ今の私はいませんから」
 小晶は何も言わない。
「最期までどうかそばにいさせてください」
 愛とはこう言うものであると、教えられたわけではないのになんとなく、わかったような気がした。

2018バレンタイン
小晶(@_mizugumo)
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