魑魅魍魎が跋扈する。学園の敷地は死体と巨大な虫によって陵辱されていた。
「まったく、ナンセンスだと思わないかね? リークイド。こんなにも死体を使って何がしたいというのだろうね、あの人は」
周りの会話から誰によるものなのかはわかっていた。誰がこんなことをするか、に関して私はそこまで興味を抱いていない。なぜこんなことをしているのか、に関しては真正面から問い詰めたいほど興味があるものの、彼に詰め寄るのは自殺行為に等しいだろう。
「……ふむ。どうしようかね」
考え事をしながら歩いていると、気づけば周りを死体が取り囲んでいた。リークイドに食べさせるのは容易いものの、この数を処理するのはいささか面倒だ。一人、というのが不利ならば。
「ひとまず逃げるに限るね!」
骨がガシャガシャと音を立てる。軽すぎる体を飛ばしながら人の多そうな場所へと走った。よだれを垂らすリークイドが私の通った道にシミを作るが、それを気にするものなどこの世には存在しない。
「おっと! そこの君!」
まだ幼い少女のような生徒の姿が見えた。何をするでもなくぼんやりその場にいる彼女に声をかけると、すぐこちらを見た。その、次の瞬間。
体が持ち上がる。あたりの木もいくつか宙に舞った。リークイドがはがれかけ、慌てて手で引き戻した。そのままズザァと地面に叩きつけられ、骨がいくつか砕ける。バラバラの白骨として彼女のすぐ近くに落ちた私を彼女は驚いた表情で見ていた。
「え……どう……え……」
明らかに動揺している彼女の目の前で、骨の再構成が始まっていく。体がゆっくりと元の形に戻り、数秒後にはすっかり元どおりになっていた。
体制を整え、改めて向き直る。私を追ってきた死体たちと私の体を吹き飛ばした巨大な虫、ワームがこちらを見下ろしていた。
「君、名前はなんだい?」
「レーレン……」
「レーレン。いい名前だ。私はガイ、骸骨のガイさ。よろしく」
「うん、よろしく……えっと、どうするの?」
「ふむ。これは俗にいう……」
リークイドがゆっくり地面に降り始める。分裂を始めた体が蠢いた。ワームの巨大な口が開く。死体がおぼつかない足取りでこちらへ走ってきた。
「ピンチというものだね!」
「うん……どうしよう」
「君も戦えるかね?」
「……久しぶりだけど、できるよ」
「そうかい。あの虫をどうにかできるかね?」
「……たぶん。準備は、いるけど」
「ふむ。了解した! ではその準備が整うまで私達でどうにかしよう!」
私達、ウィバオというクラスの生徒は二種類の魔法を使用できる。禁忌魔法と、通常の属性魔法だ。私は禁忌魔法の使用に積極的ではない。そもそも、使わなくてもリークイドがどうにかしてくれるのだから使う必要がないのだ。
リークイドが分裂する。同時に空気中の水分を凍らせ、ささやかな刃物を作り上げた。地面を張って分裂した肉を溶かす液体が、ワームに絡みつく。空中に浮かぶ氷を無属性魔法で飛ばし、死体の脳天を狙って倒していく。
一度背後から倒れた死体は少ししてからすぐに動き始めた。なるほど、命がないからこそ死なないのか。
「リークイド、君、もう少し働きたまえ」
あたりの空気の水分が一気に吸い込まれる。リークイドがその容積を徐々に増やしていった。途端に分裂し、一体一体腐肉を食べていく。
私自身はほとんど動いていないものの、レーレンの方をちらりと見ると彼女はなにやら地面に絵を書いていた。俗にいう、魔法陣というやつだろう。これまでにも何人か魔法陣を使って戦うものは見ていたが、こんなにも間近で見るのは初めてだった。
そっと彼女の前に立ち、彼女の邪魔にならないようにリークイドを操っていく。ワームはその場に止めるのみで、あとは彼女にやってもらおう。死体の処理だけならばリークイドはおおよそ得意分野だ。
「……できた」
背後から彼女の声がした。振り返らずとも、とっさにその場に浮遊魔法で浮かび上がる。彼女とワームの間の障害物を無くした。
彼女が息を吸い込む音が聞こえる。次いで流れた詠唱ののち、空中に巨大なクジラが生まれてワームを押しつぶしたのはすぐのことだった。
レーレンちゃん(@ponrete)と共闘。