episode Tuduru
なし崩しになる話


「え、エリクくん!? やめたまえ!」
 背後はすでに壁まで追い詰められている。袴の紐に手をかけられ、ずるずると脱がされていた。ゆるく勃った自身のものに彼のゴツゴツした指先が下着越しに触れる。
「大丈夫、生理現象だよ」
 微笑んだ彼の口元から舌がちろりと覗いた。どうしてこんなことになってしまったのか、思い返せば私のせいなのかもしれない。

 同居人がバイト先から余った賞味期限近い酒をもらってきたと言って、二人で晩酌をしていたことは覚えている。私は酒に強くないが、彼の酌がひどく上手だったのだろう、気持ちよく酔ってしまった。
「エリクくん、ねむい」
「センセイはお酒弱いんだね。いいよ、寝る?ベッドまで連れてったげる」
「いや、いい、流石に悪いだろう。自分で行くとも」
 ふわふわした頭のなか、思い切り立ち上がった瞬間体がよろめいた。並んで座っていたソファーになだれこんだところを彼がしっかり支えてくれる。腕の中に収まった自分の体を認識する頃には火照った顔が別の意味で熱くなった。
「す、すまない」
「全然大丈夫。センセイこそへーき?」
 彼は至って紳士だった。イタリア人とのハーフだという彼は確かにその血筋を継承している。至近距離で見上げた顔はあまりにも整っていて、思わず視線をそらした。
「あれ、センセイ、もしかして勃ってる?」
 指摘されてようやく気づく自分の鈍感さに驚いた。眠気のせいか、酒のせいか、密着した体の芯は首をもたげ始めていた。
「わ、わわち、ちがうんだ、これは!」
「あはは、いいよ、大丈夫。センセイもただ若いしね」
 緩んだ腕の中からパッと離れる。よろめきはするものの、恥ずかしさのせいか頭がやけに冴えていた。とりあえずおさまるのを待つか抜くしかない。こんなところを見られるなんて恥ずかしい。ふらふらと歩き出した私の腕を彼が掴んだ。体がびくっと震える。
「センセイ、危ないよ」
「は、離したまえ。その、こんな、……気持ち悪いだろう」
 顔を見れずに俯いた。彼の手は私の腕を離す素振りを一切見せず、無言を貫いている。
「……俺が抜いてあげよっか、センセイ?」
 気まずい沈黙を破った信じられない言葉に、ぼやけた頭の理解力がついていくのは容易くなかった。
 
「ふっ、ぅ……っ」
 彼はなんのためらいもなく私の緩く勃ちあがったそれを口に含んだ。指と一緒に舌も動き、刺激を与えている。人にされたことなどほとんどない私にとってその快感は未知のものだった。
 吐息が漏れる。すぐに達しそうになって、改めて男のプライドを思い出した。しかし気持ちがいい。彼の舌が這うたびになにか、硬いものが当たっている。熱い口内と対象的な温度のなにか。これは……。
「っぅ、え、りくくん……」
「はに?」
「き、きみ、ピアス……?」
 咥えながら喋った彼は何も言わずににこりと微笑んだ。一度口を離し、今度は舌だけで私のモノを弄んだ。しっかりと見せつけるように。赤い舌の中に銀の丸い、ピアスがあって、それはところどころ曖昧なところを刺激する。
 迫る快感に耐えきれなくなった太ももがぶるぶると震えた。行き場のない両手が自分の服を握りしめてシワを作っていく。
「はっ、も、む……っアッえりっ……っ」
 急に吸われた瞬間、これまでの我慢は果てた。彼は射精しているあいだも口を離すことなく、むしろ吸い続けている。何も考えられない頭ではただ呆然と、初めてに近い強い快感を全身で感じていた。
 体の力がふっと抜け、ずるずると壁をずり落ちる。達した疲労も相まってまぶたが落ちた。彼がその時どんな表情をしていたのか、私はよく見えなかった。


One room エリク(@homu_o)×綴

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