ヒーロー

定期試験 T-20



 定期試験を受けようと思えど、僕一人では到底敵うはずもない。協力者が必要ではあるものの、僕にはそんな友人など一人もいなかった。周りはほとんどチームを組み終わっているし、定期試験の最難関はチームを組むことにあるのではないかと思うほどだ。
 定期試験の案内がある掲示板の前でただ一人たたずんでいた、そのとき。唐突に肩をぽん、と叩かれる。
「こんにちは、亞さん。定期試験ですか?」
「……っ、だ、ダニヤさん……は、はい。定期試験、受けようと思ってるんですが、その……」
 彼女の顔がパァっと明るくなる。
「よければ私も探しているんですが、一緒にどうですか?」
「い、いいんですか、僕なんか……きっと役に立たないですよ」
 ダニヤ・ザード。クローの一年生で、見た目からわかるように猫科の獣人だ。彼女は明朗快活で前向きなごく普通の少女だった。僕が追い求め、憧れさえする普通を持っている。だからこそ彼女は僕のような存在にも声をかけ、会話しようとしてくれるのだ。
「もちろんです! ですが、さすがに一年生二人で、というわけにはいきませんよね……。それなりの強さがありますでしょうし」
「で、ですよね、もう一人くらい、探しましょうか……」
 しかし周囲を見回せど、僕たちを拾ってくれそうな人物は一向に見当たらない。やはり時期を逃してしまうとこうもやりづらくなるのだろう。
「……あ、そこのお方!」
 突如、ダニヤが別の方向へ駆け出した。その矛先には同様に掲示板を見つめるクロー生徒の姿。背はかなり高く、足の中程までのびた銀髪は作り物のようになびいている。目元は黒いマスクで隠され、無表情は威圧感すら感じさせる。
「はじめまして! 定期試験のメンバーを探していらっしゃるのですか?」
「……ええ」
 少し困惑したように彼女は頷いた。
「でしたらちょうどいいですね! ぜひ私たちとチームを組んでください!」
 あまりにも積極的な彼女の申し出に、どうやら目の前のクロー生も頷くしかなかったようだ。



「敵はラフレシュ。私が弱点をつけますが、亞さんの弱体があればもう少し楽にできるでしょう」
「私も同感です!」
「あ、あの……僕が、先に弱体化させてきます……その、間違えて二人にかかってしまうとアレなので、この辺りで待っていてもらえますか。終わったら、呼びに来ます……」
「それは一向に構いませんが、お一人で大丈夫ですか?」
「は、はい。敵に見つからないようにしますが……10分、経っても戻ってこないときは……」
「もちろん私たちがすぐに向かいます!」
 キラキラした笑顔でダニヤは言った。ラグナもその後ろでコクリと頷く。本当は怖い。怖いけど、もうここまで来たらやるしかない。
 震える足を必死で動かす。ラフレシュがいる方向へ足を向けた、そのとき。ダニヤが横にそっと立った。
「亞さん」
「は、はい、なんですか」
「きっと貴方なら大丈夫です。頑張ってくださいね」
「……ありがとうございます、できる限り、やります」
 この人は、僕のことを信じているのだ。至極当然のことのように。ほんの少し、自信が湧く気がした。こんな僕にもできると思ってくれている人がいる。
 かけていく。弱体化には多少の時間がかかるが、制限時間内では終わるだろう。ラフレシュの姿が見えた。
 息をゆっくり、辺りに散らしていくように吐き出していく。若干白く濁った僕の息がラフレシュのいる場所へゆっくり流れた。今の僕の能力では制御は難しい。この場にラグナやダニヤがいれば巻き込んでいただろう。
 ラフレシュは僕に気づくことなく、その場で悪臭を撒き散らしていた。吐き気を催したが、必死で我慢する。
 弱体化させる息が辺りを包み込んだ。ラフレシュが一歩、歩を進めようとする、そのとき。ガクン、とラフレシュの体が落ちた。

「……できました! ラグナさん、ダニヤさん!」
 叫んだ瞬間、ラフレシュの顔らしきものがこちらを向いた。気づかれた。でも大丈夫だ、あの二人がきっとくる。
 
「はい!」
 森から飛び出して来た二人の姿はヒーローのようで、あんなに眩しい姿があるものか、と感心することくらいしかできなかった。

定期試験:T-20
ラグナちゃん ( @homu_o )、ダニヤちゃん( @konkuwa )
prev  return  next