劣等感


問いかけ



「君らの気持ちを聞かせてごらん?」
 目の前で薄笑いを浮かべたトイ=テン=フェルはそう言い残したその場を去った。遺されたのは不気味なローブ姿の無数の生徒達。異形にまみれた彼らの姿は恐ろしくも、力を持っていそうだった。
 その場でわらわらと暗い面持ちの中解散していく生徒達に紛れてじっとローブ姿の生徒を見つめた。魔物。いつかどこかで聞いた姉さんの友人の人達の会話を少しだけ思い出していた。

 ここにきてから何度も姉さんを見た。僕より背は低く、身長を少しかさましする様に上へ伸びた鬼の角は揺らぐことなくそこにあった。金髪が揺れて笑うさまはどこか、故郷の鬼を思い起こす。
 姉さんと勝手に呼んでいるものの、姉さんは僕のことを知らないだろう。僕がこの世に生を受けてわずか二十数年。姉さんがこの学園にいる年数とは比べ物にならない。ただ僕はあの人の名前を呼ぶのが少しだけ恐ろしいのだと思う。
 姉さんならどう選ぶだろう。味方を選んで彼らを受け入れるか、敵と選んで彼らと対峙するか。姉さんと僕の間には一切の交流がないせいで、僕の頭の中だけで姉さんの姿が作り上げられてしまった。姉さんは、優しい。きっと救おうとする。たとえ手遅れになったとしても。
 僕は……僕の答えは、もう決まっている。自分に救える力はない。自分に誰かを守れる力もない。今ハイリヒンメルに赴いてる生徒達がどうなろうと僕には関係ない。ああいっそのこと、姉さんもそこで死んでしまえばいいのではないだろうか。そしたら紛らわしい故郷との因縁も途切れ、きっと僕は用済みになる。
 そっと魔力を小さく生成した。姉さんは怒るだろうか。母は、理や標は怒るだろうか。**、と書かれた瓶の中に魔力を流し込むとほのかにその瓶はきらめいた。これを選ばせて先生は何がしたいんだろう。生徒同士の殺し合いだろうか。もしそうなら僕は真っ先に負けてしまうな。自嘲気味に口角が上がる。姉さんならきっと勝ってしまうのだろうけれど。

 姉さん、ぼくは。
「貴方が、羨ましい」
 僕はただ、力が欲しいだけなのだ。

prev  return  next