姉さんは今頃、空の国で何をしているのだろう。誰かを助けているのだろうか、それとも死にかけているのだろうか。
真剣に、姉さんが死んだらどうなるのだろうと考えた。どのみち僕はここを卒業しなければ戻れないだろう。それが一体いつになるのかはわからない。けれど、姉さんがこの世界からいなくなって母がそれを知ったら、僕は用済みになるのではなかろうか。姉さんを連れ戻すため、それだけのために僕はここに送り込まれた。そのはずなのに実家から手紙や連絡をもらった試しなど一度もない。結局僕はここに厄介払いされただけなのだろうということを嫌という程見せつけられている。
別にそれはいい。もう、諦めた。
トイ先生の発した、まるで僕たちが弱虫かのような言葉が引っかかっていた。それはきっと僕だけじゃなくてこの場にいる様々な生徒に突き刺さったのだろう。僕に至ってはもう、それが事実なのだから仕方ない。だって僕には力がないのだから。
「助けられるなら……」
「助けたいよね」
突然横からひょっこり現れた、その生徒に飛び上がるほど驚いた。きらめくような白い髪が揺れ、透き通った海のような瞳がこちらを見つめている。
「あの先生の言い方、きついよね。まったく、もう少し生徒のこと考えて欲しいよ」
「……同感、です」
「やっぱり?」
へへ、と笑った彼女のその表情の奥にはどこか不安が蠢いているような気がした。彼女はこうやってごまかすタイプなのかもしれない。
「でも、力や勇気がないのは事実だよね」
「……」
「あ、ごめんよ! 君は違うかもしれないけれど……」
「いえ、その、そこまでわかっているのにどうして笑っているのかと思って」
「……君こそ、平気そうだよ」
苦笑する彼女の顔から視線を逸らした。僕が平気そうに見えるのは、だってそりゃあ興味がないからだ。でもきっとこの人は違う。空の国に向かった生徒たちを案じている。不安が見え隠れしているのはそのせいだ。
「この投票で僕たちの運命も決まるのかな」
「もしかしたらそうかもしれません」
「君はあっさり決めちゃったのかい?」
「僕の中に答えはただ一つだから」
彼女はきっと、守るための投票をするのだろう。みんなそう。守るための投票をするのは当然だ。でも僕にはその思考がなかった。僕は自分のことしか考えていなかった。結局、それが僕なのだ。
「僕は戻ります」
「あ、うん。引き止めてごめんね」
「こちらこそ」
じゃあね、と手を振る彼女に、控えめに手を振り返して背を向けた。ここにいる生徒たちはどちらに投票するんだろう。けれど結局のところ、やっぱり僕には関係ないような気もするのだ。
レチュル・オルテンシアちゃん(@tode_zo_)お借りしました