A2K2

6.0 割れる空からの声
レイ


「大丈夫、オレ様たちは絶対に勝つ!」
 その声と同時に体の力が奥底から湧き上がる気配がした。意気込んだクオリアがその瞬間飛び上がり、鉄パイプを振り上げる。とっさに土を張り巡らせ、エクスピアシオンの動きを止める。
「そこの……もう一人の方」
 金髪に赤いサングラス、クローの生徒に声をかける。特に何かしているとは思えないが、先ほどの声は彼の手に握られているものから発せられていたらしい。
「オレは……って長い自己紹介はしてる暇ないよな。テリーでいいぜ」
「すまない、テリー。君の手に持ってるものは?」
「ああ、これは……」
 うおりゃぁ! と、凄まじい叫び声ののちに殻が割れる音がした。
 クオリアの鉄パイプがエクスピアシオンの殻を突き破っている。再度割れる音が響き、殻と色彩豊かな花が地面に散っていた。……花?
「クオリア、退け!」
「うわ、すっげー!」
 中から現れたのは赤と黒の魔物。これがエクスピアシオンの本体だったのだろうか? 属性が変化する魔物はこれまで聞いたことがないから、きっとこれもまだ水属性だろう。他に行動パターンはわからないが、今は様子見がいいだろうか。
「もういっちょ弱体化しておくか? レイセンパイ」
「……ああ、できるならそれがいいでしょう」
 ただ事ではないと察知したクオリアが距離を取る。テリーは持っていた道具を口元に当て、言葉を紡ぎ始めた。それに合わせてあたりの土をかき集めて行く。
「あ、お前いいとこ持ってくつもりだろ!」
「うるさい、先制攻撃されるより動きを封じたほうが楽だろう」
「残り1分くらいだけど、大丈夫か?」
 集中しているところに話しかけられると魔法が揺らぐ。慣れてきたとはいえ、まだまだの実力だった。幸い、魔物はそこまで動き回るわけでもなくおとなしくしてくれている。攻撃の初動に入られる前にとりあえず動きだけでも封じておきたい。
 手のひらを上に向ける。土が連動して沸き起こった。魔物を取り囲むように張り巡らせた土を徐々に狭めて行く。一拍おいて手のひらをぎゅっと握りしめる。手の中に抵抗を感じながら、魔物を締め上げた。
 一瞬、破裂音がして何かが弾け飛ぶ。固めていた土が砂にもどってサラサラと地面へ落下した。黒いモヤのようなものが土の間からすり抜けて空気中に消えて行く。気づいたらそこには何もなかった。
「……んだよチクショー、結局持ってくんじゃねえか」
「結果オーライだろう。なにはともあれ、二人とも協力ありがとうございました。なんとか倒せましたね」
 ぶつくさ文句を言うクオリアをよそに、リギーとテリーに向き直る。清々しい笑顔と、薄ら笑いがそこに並んでいた。
「しっかし結局あの赤黒いやつ、なんだかわかんなかったな」
「誰も怪我してないし、いいんじゃねえか?」
「まぁな」
 腑に落ちなさそうなクオリアが後ろ手に手を振ってその場を去ろうとする。自由すぎる彼女の動きにも慣れたものの、相変わらずよくわからなかった。
 また別の目的があると言っていたテリーとリギーとも別れ、一人で歩く。そうだ、俺はまだやらなければならないことがある。
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