フィールドの様子を見ながら後ろ歩きをしていると、背中にトンと誰かがぶつかった。振り返ればその人も後ろ向きに歩いていたようで、視線がかち合った。
「ごめん」
「こちらこそ、すいません」
開いているのか開いていないのかわからない瞳をしてこちらに頭を下げる彼の背後から、巨大な蔦がその顔をのぞかせた。彼の不思議な形の耳がピクリと動き、僕の体を掴んだ彼がその場から跳躍する。
「何!?」
「変なものに追いかけられてしまいまして」
「はぁ!?」
かなり凶暴な、生き物かのようにうごめく巨大な蔦は淀みなく彼……僕たちを追いかけてくるのにもかかわらず、彼の表情は一切焦りの色を見せなかった。抱えられたまま肩越しにその蔦を見やる。よく見るとフィールド全体に張り巡らされているその蔦は、誰が出しているのかすらわからなかった。
「ずっと追いかけられてんの?」
「ええ」
ずれたメガネをあいている方の手であげた彼が動きに合わせて声を震わせた。彼の軽快な動きは彼自身の身体能力というよりかは、魔法による浮遊なのだろう。微量な魔力を常に彼から感じる。僕を担いでいるのも手を添えているだけで浮かせているのかもしれない。
「あれ、植物でしょ。僕が一発燃やすよ」
「おそらくはすぐ再生すると思いますが。魔力によって操作されているのであれを操る主を戦闘不能にしない限りは……」
「あのね、僕完全に巻き込まれただけじゃん? 僕が逃げられたらそれでいいわけ。だから離して」
まじまじと僕の顔を見た彼の表情が微妙なものに変わる。知ったことかとその場から鬼火を少しずつ巨大な蔦に当てるが、これほどの火力では足りないようだ。やはり踏み込んで一つ巨大なものを出さなければ。かけてもらった強化はまだ残っている。多少の火力なら出せるだろう。
「そうですね、ひとまず隙を作りましょう」
「自分も逃げる魂胆?」
「ええ、そりゃあ逃げたいですから。良いですか、君」
「いいよ。特大火力で燃やしてやるから」
彼がそこらへんの土から小さな蔦を出現させた。彼は木属性だったのか。僕の体に巻きついたそれは、逃げながらも彼の指先によって操られている。
「止まっていればすぐに追いつかれるでしょう。タイミングを合わせられますか」
「大丈夫。いい感じにあの蔦に突っ込ませて」
薄く微笑んで頷いた彼が小さくカウントダウンする。手の中でできる限りの火力の火球を作り始める。魔力でコーティングを施し、熱が外に漏れないようにもした。
「3、2、1」
腕の中の火球は徐々に大きさを増していく。魔力を込めに込め、凝縮させているはずがそれでもなお小ささを保てないほどだった。
「ゼロ」
すごいスピードで僕の体に巻きついていた蔦が動き始めた。迫る蔦の胴体めがけて火球を練り込ませ、自分の体が離れた瞬間に魔力のコーティングを解いた。
一瞬の間。一度に凝縮された炎の魔力は、大気中の酸素に触れることで急激に広がった。とっさに塞いで、と目で合図するよりも早く彼は耳を塞ぎ、大爆発が起きる。僕の体に巻きついている蔦ごと引っ込めてくれたおかげで巻き込まれることはなかったが、直後はだいぶ耳鳴りがひどかった。
「……この隙に逃げよ。……なに?」
「いいえ。君とは敵にはなりたくないですね、燃やされそうです」
「……こんな時以外燃やさないっつの」
着地させてもらって制服を整える。爆発地点の周辺で戦っていた生徒も数名巻き込んでしまったようだが、命にはかかわらないもののはずだから大丈夫だろう。
「あ、そうだ。僕は茉紘。アンタは?」
「オズ=ジル=ヨグと申します」
さっと出された手袋のはまった手を軽く握って、お互い離散した。
修練棟 16時の部
ヨグさん(@oz_gl_yg)お借りしました。何か問題ありましたらご連絡ください!