「疲れた」
二メートル近い身長がある翼人……レイの隣にどかっと腰をかける。ようやく終わった修練棟16時の部は、同時に午前の部の終わりを告げているようだった。隣に座った僕に視線を動かしたレイが、ぼそりと呟く。
「お疲れ」
「アンタもね」
「ええ」
相変わらず会話は続かない。いつもはたくましく張りのあるレイの翼も、今はどこかくたびれているようだ。顔に疲れが出ているし、普段より猫背が深い。
「……でも、楽しかった」
自然と頭の中は怒涛の数時間を思い出していた。いろんな人と話した。いろんな人と一緒に戦って、対戦した。ああ、ものすごく。ものすごく楽しかったと思う。
「俺もそう思う。何よりも、楽しかった」
歳のせいだろうか、なんだか嫌に感傷に浸ってしまう。だって本当に、ああ、本当に楽しかったのだ。驚くほど早くあの時間は過ぎて、いろんな人と知り合って、それがたとえあの時間だけだったとしても幸せだと思った。今日の記憶だけは、どれだけ時間が経ったって忘れないだろう。
「……茉紘、手が」
レイに言われて手を見ると、ひどく皮膚が爛れている。そうか、魔力を出し過ぎたから。自分の体の中にある鬼火がほとんどなくなっていることもわかっていた。自然治癒力がほとんどなくなった上に、鬼火を手からばかり出していたせいで荒れたのだろう。普段ならば最悪、と喚くところだが、なんとなく今日はこのままでいいような気がした。どうせ、休めば元どおりになるし。それにこの傷跡は楽しかった思い出の証のような気がする。
「医務室にでも……」
「いい。僕が自然治癒できるの知ってるでしょ」
「できてないぞ」
「いーの。時間経てば治る。疲れみたいなもの」
手のひらを合わせる。いつもはスベスベなのに、今はザラザラとした肌触りが心地よかった。何故自分がこんな風に感じてしまうのか、わからなくて自然と笑みがこぼれる。
「……突然笑ってどうした」
「ふふ、ふふふ、あのね、うん、なんか……」
こみ上げた笑いは止まらなくなって、声がどんどん大きくなった。
「すごく、楽しかった」
自分が今、どんな風に笑っているのか。それはレイの表情を見ればよくわかることだった。
お付き合いいただいたみなさま、ありがとうございました!