鈍色の星

茉紘
交流祭その後



「ヒルデって金属性だったっけ」
 ある日の昼下がり、とくに用事もない僕とヒルデは自室の中で各々のことをしていた。手持ち無沙汰に引き出しの整理なんてことをしていたせいか、ふと、交流祭のときもらった星が見えてぼんやりと考えてしまう。口をついて出た質問にヒルデはなんてことないように頷いた。
「そうだが?」
「じゃあこれ、指輪にできる?」
 差し出した一つの真っ黒な星を見た彼女が僕とそれを交互に見比べた。
「……これ」
「気にしないで、できるかどうかだけ教えて欲しい」
 別に隠すようなことでは無いのだけれど。知られたく無いというよりかは、彼女に対して下手に気を遣われたく無いのが大きいのかもしれない。迷うようにそれを手に取った彼女が色んな角度からそれを見直して頷く。
「できる」
「じゃあやって。小指にはめるくらいのサイズならこれくらいでもできるでしょ?」
「ああ。妾には造作もないこと……だが」
 やはりまだどこか、腑に落ちないところがあるのか彼女は僕を見つめた。ため息をついて口を開く。
「ごめんって。だいぶ前の同室の子からもらったの。そこそこ力も学もある子だったんだけどね、討伐依頼で死んじゃったんだ。その思い出っていうか……」
 一つだけ言いよどんで口をつぐんだ。別にその通りのことだから仕方ないとはいえ、未だに彼女のことになると胸が締め付けられそうになる。
「遺品」
「茉紘、その、ごめん」
「いーよ全然。ていうか、そんな人たくさんいたから。この子だけはちょっと思い入れが強くなっちゃっただけなんだよね」
 ヒルデが手のひらに乗せた星を指先でいじっていく。もののみごとにしゅるしゅると、液体のように金属が溶けて再形成されていく様は見ていて面白かった。
「手を」
「手? はい」
 さっと左手を出すと、その小指に指輪がすっぽりとはまった。もとより黒く澱んでしまったその金属は輝きを失っているはずなのに、部屋のあかりに照らされて少し煌めいた。
「ん、ありがとう」
「……慣れたのか?」
 その言葉の意味がわかってしまったせいでなんとなく、ヒルデに頼まなければよかったと思ってしまった。彼女もまた長寿のせいで色んな別離を経験したのだろう。気持ちは痛いほどにわかる。何度もなんども出会っては別れ、出会っては別れた。
「慣れないよ。でも、色んな方法は知った。気持ちの整理の付け方、とか」
「……そうか」
「ずっとそばにいてくれる人ができたら、きっと幸せだよね」
「茉紘は?」
 ヒルデの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「僕はずっと学園にいるよ」
 質問の意図を捉えていたのかどうか、彼女が何も言わなくてわからなかった。左手小指の指輪がその鈍色をほのかに濃くした。


交流祭のその後の話。4.0以降は小指につけているかと思います。
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