熱い。
ここはどこだろう。僕は今何をしていたんだっけ? 記憶が混濁している。思い出そうにも、何も出てこない。
あつい、アツイ、熱い。
ただ、身体が異様に熱いということだけはわかる。ひどい熱に羽化されている。それはまるで、体がまるごと炎の中に投げ込まれているかのような。
「……うヴぅ、」
低い、低い呻き声がする。魔物だろうか。なら早く逃げなくては、僕は魔物の前では非力な枝にすぎない。
熱い。
瞳を開けようと力を込めた。張り付いていたまつ毛とまぶたの先端が無理やり引き剥がされていく。視界は暗い。視界は霞んでいる。
熱い。
目が開かれるのと、そのほかの感覚が回復していくのはほぼ同時だった。雑音、ざわめき、獣の咆哮、何かが壊れていく音。混ざりあったそれは、まるでこの世のものではないかのようだ。
ああ……熱い。あつい、あついあついあついあついあつい!
「……ヴ……ォォオォアァァアァ!」
わけがわからなかった。
頭で何かを考えようとするたびに体内が燃え盛る痛みに凌辱される。僕は今どうなっている? 僕の体は? どうして、口が開かない?
徐々に明瞭になりゆく視界に映ったのは、荒廃し影を落とした大地とも言えぬ世界だった。文字通り体を焦がす熱の痛みに悲鳴をあげたくとも、声が出ていない。否、口が開かない。先ほどから聞こえていた低い魔物のような唸り声は、ああ、これは、僕のものであることに徐々に気づき始めていた。
「煤竹ェ」
「ヴ……ヴヴ」
アクズミ。その名前を思い出すと同時に、僕の中で全て合点がいった。思い出した。雪崩のように舞い戻る記憶と、何度目かわからない目覚めとともに右腕だったところを横に薙ぐ。黒いそれが煙をまとってあたりの岩肌を削り取っていく。凄まじい衝突音と、かすかな生き物の息が絶える音を耳に捉えた。
「お、八つ当たりかァ!? いいぜいいぜ、どんどんやっちまえ! ここは弱肉強食だからなァ!」
アクズミの能天気な声が響く。魔界に蔓延る霧なのか、それとも己の体を燃やす炎から立ち上る煙なのか、わからない何かが視界をかすませていた。動くものを視界に捉える。まだ制御しにくい炎を体の先から顕現させ、その的へと飛ばした。
それが知性を持たない魔物なのか、はたまたかつての生徒たちだったのか僕は知らなかった。が、即座に跳ね返された僕の体の一部……黒い炎は散り散りになって魔界の地面へと落ちる。
「……なに」
「ヴヴ……ゥ」
瞳だけ動かしてその方を見た。人型。背後から何かがうごめいている。顔はよく見えない。……動く。こちらめがけて飛んできた、背後で蠢いた何かを視認する前に体を動かした。かすかな腐敗臭と獣の匂いが鼻をかすめる。着ていた着物に穴が空いて、あっさりと蛇は燃えている体を貫通した。
「……キモ」
「なんだァテメェ! 煤竹、やっちまえ!」
「どっから喋ってんだよウゼェな」
声は聞こえている。内容もなんとなく理解している。でも入ってこない。体の痛み、内側から逃げ出せない熱をどうにかしたいと頭の中で叫んでいる。叫べないことの苦しみを、確かに僕は八つ当たりしようとしている。
「だからなんだ?」
心のうちの、暗いところ。アクズミはきっと僕のそれだ。名前も知らない目の前の生徒に向けてゆっくり袖をあげた。
「やる気か?」
僕に口があれば、今笑っていたのかもしれない。体は未だに焼かれ続けているのに、それでも奥底から沸き起こる熱は別物だった。僕には、力がある。
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