2人でお話しするはなし
何なんだ、この状況は。
私の目の前にはにこにこと笑みを浮かべた零さんがいて、本当にどういう状況なんだと頭を抱えそうだった。
先日凛月くんを探していた零さんはその翌週、凛月くんよりも先にお店にやって来た。
いつの間にかマスターと仲良くなっていたらしい零さんは出勤しようとやってきた私を捕まえると奥のソファー席に座らせた。おかげでまだ制服も着替えられていないために、このままだと遅刻扱いになりそうで怖い。
「そんな緊張しなくてもい〜だろ、何も取って食おうとしてるわけじゃないんだから」
「や、でも……その」
先日は嘘をついてしまったこともあり本当に居心地が悪い。そわそわとしてしまうのも仕方のないことだと思う。いっそごめんなさいと謝ってこの場を逃げ出そうか。そんな風にぐるぐると考えていたら、目の前で小さく吹き出す音。
「っ、?」
「くくっ……悪い、あまりにも百面相してるから」
くすくすと笑う声は嘲笑というより単純に面白がっているようで、悪気はないのだろう。
それでも笑われるのは恥ずかしく少し俯けば、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「マスターの許可は取ってあるから、バイトのことは気にすんな。ちょっと話がしてみたかっただけだし」
「話……ですか?私と?」
「他に誰がいんだよ?」
さも当然のように言われてきょとんとする、私の何が彼に引っ掛かったのかわからなかった。……いや、凛月くんのことで嘘をついたからか。
「ええと、その……先日はごめんなさい」
「何で急に謝ってんだよ」
「……凛月くんのこと、」
「あぁ、あれか。凛月にそう言えって言われたんだろ?お前嘘つけるタイプじゃなさそうなのにな」
バレている。申し訳なさに肩を竦めれば気にしてね〜よと一笑された。
ん?じゃあなんで、
「お前、名前は?」
「えと、優希です。水瀬優希」
「優希、か。良い名前だな」
艶のある低音で名前を呼ばれてどきりとした。凛月くんの心地良い音よりももっと、心を鷲掴みにされるような、音。
あぁ、この人は、危険だ。