序章


 時は、魑魅魍魎ちみもうりょうが蔓延る時代から千年が過ぎた頃。

 時代とともに廃れ、現代から薄れようとしている古い趣のある街々。
 草が生い茂る土が剥き出しになっていたはずの、油と化合物で覆われてしまった大地。
 空気も水も海も、化学物質によってけがされ、激減していく自然。
 美しいはずの環境の中に存在する霊妙なるものが、過去へほうむられようとしていた。

 しかし、異形いぎょうの存在は今も尚、息衝いきづいている。
 人々が忘却の彼方へ追い遣ろうとしても、機を窺い忍び寄る。
 悪鬼怨霊あっきおんりょうなる者達は、密やかに害をし、命を脅かす。

 過去に存在した、悪しきものをはらう陰陽なる道を極めし者は、時代によって葬られた。
 いくら悔やんでも戻らない現実。


 そんな折に、霊妙なる力を持つ者が現れた。
 彼等は霊威を振るい、徒人をあだなす悪鬼怨霊を祓い、時に封じ、神霊なるものを時に鎮め、時に癒した。


 霊鬼を恐れず、神威をもって立ち向かう彼等は、徒人ただびとに畏敬を込められ――修祓師しゅばつしと呼称されるようになった。


 しかし、修祓師も過去を忘れている。人の世界と死の世界を調律する者がいることを。
 霊魂を正しく救う存在が、霊魂を輪廻へ導いていることを。

 修祓師は忘れている。己がただ霊妙なる力を持つだけの、人の身であることを。


 全ての因果をもたらした、始まりを告げる少女――『神薙姫かんなぎひめ』の存在を。







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