共通の仲間


 白崎一颯しらさき かずさ。異国の母の色彩と美貌を受け継いだ、詩那の親友。

 彼女は詩那と同じ『悩み』を抱えている。
 幼い頃から秘めていた『悩み』に鬱屈うっくつした日々を送っていたが、この町の女子中学校で詩那と出会い、共通の『悩み』を持つ者同士として仲良くなった。

 初対面の頃の詩那は超越した存在と思っていたが、いざ話してみると案外普通で、それが魅力的な人だと知ってからは気兼ねなく接している。

 対する詩那も、一颯のことを近寄りがたい人だと思っていた。しかし、思い切って話しかけてみると、実際は男勝りな格好良い女の子だった。

 一颯は過去のことが原因で虚勢きょせいを張るくせがある。しかし、詩那が相手だと虚勢が綺麗に消える。
 幼い頃から喧嘩三昧けんかざんまいだった日常が色付き、心が癒される。
 掛け替えのない親友を得た一颯は、この奇跡のような出会いに感謝した。

「……なあ、詩那」

 一年C組の教室に入り、窓際の最後尾の席に座る詩那に声をかける。
 ちょうど詩那の右隣の席が、一颯の席だ。

「何?」
「昨日さ……ちょっと遭遇しちゃって」

 今は朝で教室内。大っぴらに話せない一颯は言葉をにごしながら言うと、詩那は目を丸くした。

「えっ。……大丈夫だった?」
「何とかな。詩那が考えたヤツ、凄く役に立ったよ」

 ありがと、と一颯がはにかめば、詩那も安心して破顔はがんした。

「ん、どういたしまして」

 心を許した人に見せる、優しい笑顔。
 一颯は、まるで夜空のようだと感じた。

 夜は時に無情なる闇を与える。しかし、月星が発する柔らかな光を包容して、更に輝きを引き出すのも夜だ。
 冴え渡る月にたとえられる一颯をも包容する、心に安らぎを与える優しい夜の空。
 神崎詩那という少女は、そんな在り方をしていた。

(やっぱり、詩那はいい奴だ)


 困った時は助けてくれて、いざという時は支えてくれる友達とは、滅多に巡り合えないだろう。
 一颯にとって、心から信じられる理想的な親友。
 だからこそ、一颯も詩那の力になりたいと思っている。

「あ、そうだ。この前新しい本、出たよ」
「マジ? どんなの?」

 詩那は話題とともに鞄から一冊の漫画を出す。その表紙を見た一颯は目を輝かせた。

「えっ! やっと出たんだ、これ!」
「うん。良かったら読む?」
「うん! ありがと詩那!」

 嬉しくて無邪気に笑う一颯。その笑顔に、詩那もつられてはにかんだ。
 そんな二人の美女の笑顔に、周囲が見惚れていると気付くことはなかった。


 少しの刺激が利いた、よくある日常の断片。
 それが気付かぬうちに崩れるとは、この時まで思いもしなかった。


◇  ◆  ◇  ◆





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