彼女は詩那と同じ『悩み』を抱えている。
幼い頃から秘めていた『悩み』に
初対面の頃の詩那は超越した存在と思っていたが、いざ話してみると案外普通で、それが魅力的な人だと知ってからは気兼ねなく接している。
対する詩那も、一颯のことを近寄りがたい人だと思っていた。しかし、思い切って話しかけてみると、実際は男勝りな格好良い女の子だった。
一颯は過去のことが原因で
幼い頃から
掛け替えのない親友を得た一颯は、この奇跡のような出会いに感謝した。
「……なあ、詩那」
一年C組の教室に入り、窓際の最後尾の席に座る詩那に声をかける。
ちょうど詩那の右隣の席が、一颯の席だ。
「何?」
「昨日さ……ちょっと遭遇しちゃって」
今は朝で教室内。大っぴらに話せない一颯は言葉を
「えっ。……大丈夫だった?」
「何とかな。詩那が考えたヤツ、凄く役に立ったよ」
ありがと、と一颯がはにかめば、詩那も安心して
「ん、どういたしまして」
心を許した人に見せる、優しい笑顔。
一颯は、まるで夜空のようだと感じた。
夜は時に無情なる闇を与える。しかし、月星が発する柔らかな光を包容して、更に輝きを引き出すのも夜だ。
冴え渡る月に
神崎詩那という少女は、そんな在り方をしていた。
(やっぱり、詩那はいい奴だ)
困った時は助けてくれて、いざという時は支えてくれる友達とは、滅多に巡り合えないだろう。
一颯にとって、心から信じられる理想的な親友。
だからこそ、一颯も詩那の力になりたいと思っている。
「あ、そうだ。この前新しい本、出たよ」
「マジ? どんなの?」
詩那は話題とともに鞄から一冊の漫画を出す。その表紙を見た一颯は目を輝かせた。
「えっ! やっと出たんだ、これ!」
「うん。良かったら読む?」
「うん! ありがと詩那!」
嬉しくて無邪気に笑う一颯。その笑顔に、詩那もつられてはにかんだ。
そんな二人の美女の笑顔に、周囲が見惚れていると気付くことはなかった。
少しの刺激が利いた、よくある日常の断片。
それが気付かぬうちに崩れるとは、この時まで思いもしなかった。