ここは学力が全ての私立クローバー学園。

私はそこで保健医として働いており、日々怪我をした生徒の手当てをしたり、悩める少年少女達の相談を聞いてあげたりとやり甲斐を感じている。

生徒達は皆真面目で良い子なんだけど一人だけ困ったさんがいた。

「もー…ユノ君、またサボりに来たの?」

「…サボりに来たわけじゃないです。自習になったからクロハ先生に会いに来ました。」

本来なら授業中であるこの時間に特に体調が悪いわけでもなく保健室にやって来た男子生徒。
名前はユノ君。一年生の中で成績は常にトップなんだけどどうもサボり癖があるようで…。
私がこの学園に赴任してから度々ここに来ている。

「…も、もう!またそうやって先生の事からかって!早く教室戻って自習して来なさい。」

ユノ君が困ったさんと言った理由はさっき言われた台詞にある。
ああやっていつも思わせ振りな言葉を言ったり、態度を示したりしてくるから困ってるのだ。

柔らかそうなふわふわとした黒髪に、セピア色をした切れ長の瞳。細身で身長も高いときた。
成績も良くイケメンときたら周りの女子生徒達が放って置くわけもいかず、彼は凄くモテる。

「あれ?もしかして照れました?」

「て、照れてません…!」

こてん、と可愛く首を傾げながら聞いてくるユノ君はゆっくりと私の方へ近付いて来る。
本当は照れているのを隠すように本棚に纏め終わったファイルの片付けをしていた私はじりじりと迫って来てるユノ君に結構近くに来るまで気付かなかった。

「…?…っきゃああ?!」

ふと影が差したことに不思議に思い顔を上げればすぐ近くにユノ君がいることに驚いて叫び声を上げて後ずさる。

「な、何…?ユノ君…?」

「照れたクロハ先生可愛いと思って。…それに先生良い匂いしますね。………ちゅ。」

「っっっ?!!!」

すんすんと匂いをかがれたと思ったら、頬に触れたユノ君の唇。
可愛らしいリップ音と共にすぐに離れたけど私は驚きで口をパクパクさせながら石になったかのようにその場から動けなかった。
自分の顔が真っ赤になってることが見なくても分かる。

「た、体調悪くないなら早く教室に戻りなさい…!!」

震える口を動かして一喝すれば勝ち誇ったようにフッ、と笑って素直に教室へ戻って行くユノ君に溜め息をついた。

彼は一体私をどうしたいんだろうか。
キスされた頬を触れば熱と感触がまだ残っていて。
ドキドキとうるさく鳴る心臓を静めるために私は大きく深呼吸したのだった─…。





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