御好みで
月が泣いている。
見上げた時恵はそう感じた。龍太郎は帽子を少し上げ、同じ様に見上げた。
「笑って、ないか。」
「いいえ。泣いてますわ。」
時恵の顔は、寂しそうにしていた。
冷たい手を握る。
少し顔を動かし、又、月を見た。
雲も星さえも無く、天の暗黒は、神々しい光を帯びた月に支配されていた。
「月の表情は。」
帽子を取り、揺らぐ髪。
「見る者の心情を反映する、そうだ。」
時恵は薄く笑い、首を傾げた。
「…寂しいのか。」
「…御好きな様に。」
月に背を向ける。其れでも、月光が、支配した。
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