遺伝子
井上が云った――御前は、つくづく可哀相な奴だな、と。
可哀相。
不思議な事を云う物だ、と龍太郎は首を傾げた。
「何処等辺がだ。」
「そんな男前の遺伝子、御前で、終わっちまうんだもん。」
そんな事か、と、笑った。
「こんな遺伝子が、世に蔓延ったら、野心家が増えるだけだ。」
「まあ、一理あるな。」
煙草に火を点け、薄く笑う。
「考えた、事が無いと云えば、嘘になる。が、考えた処で如何仕様も無いだろう。だから、考えない。」
「可哀相な奴だな。俺が代わりに産んでやろうか。」
「……遠慮願う…」
「俺が、女なら、御前の遺伝子、欲しいけどな。」
井上も又、薄く笑った。子供を作る気は無い癖に。
「女って、どんな遺伝子なら、産んでくれんのかな。」
龍太郎はゆっくりと煙を吐き、遠くを見た。
「本能、では無いだろうか。」
「本能…?」
「欲した男の子なら、欲しいのでは無いのか…?」
無言。井上は、笑っていた。何時もの様に。
「俺が女なら、俺の子は要らねぇな。」
「…俺も要らない。」
煙草を消し、肩に腕を回し、そっと龍太郎は囁いた。
「こんな良い男の遺伝子が世に広まったら、敵が増え、おちおち、寝ても居られない。」
「…違いねえ。」
嬉しそうに笑った。
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