自尊心
暖かく、落ち着く、好いた男の腕。自分が動けば、好いた男は少しばかりの声を出し、微かに目を開ける。
其の時が、倖せ。
「眠れ、無いか。」
「本の少し。」
そう云えば…。
好いた男は、腕に力を入れる。子供では無いと笑って見せるが、嫌いでは無いのは確かで。
何人の女が、こうして、こうされたか。
浅ましい嫉妬が、渦を巻く。
「龍太郎様は。」
何人の御方を、其の腕に、御抱きに為られたの……。
一瞬、目を開き、視線を逸らし、遠くを見る。
「さあ。」
曖昧な言葉は、私を傷付けぬ様にか否か。自分の、高い、自尊心の為か否か。私には、到底判り兼ねる。
「嫉妬、そう、思って下さっても、構いませんわ。」
私は、此の男しか、知らない。其れが、どんなに切ない事であろうが、寂しい事であろうが、私は一向に構わなかった。気にも、留めなかった。留める筈も無かった。此の男しか、私は知りたくは無いのだから。
「三人、かな。時恵を入れて。」
自分を入れ、三人。自分の前には、知らぬ二人が居る。私と同じ様に抱き、私と同じ様に囁いた、そうに違いない。我乍ら、下らないと思うが、陳腐な自尊心は、渦を巻く。轟々と音を立て、私の身体を掻き乱す。
「少ないですわね。」
笑う。
「御前、俺を何だと思っているのだ…。拓也たいな人間では無い。」
そう、自分は違うのだという、自尊心。だから、私は云う。好いた男の、其の高い自尊心を傷付けぬ様。
「そんなに、素敵な御顔。放って措かれないのでは、御座いませんか。」
「…何も、出ないぞ。」
そうは云うが、顔は笑っている。
「死ぬ迄愛して下されば、其れだけで、時恵は、倖せですわ。」
他の御方等、作らぬ様。
好いた男は、最初の人間。そして最後。
では、貴方は……?
違う。
為らば、最後の女に、して下さいませ。私の、陳腐、滑稽な、自尊心の為。
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