アウト サイド


ふらりと出て行ったかと思えば、大きな鞄を持って帰って来た。こんな夜中に何処に行って居たのか、聞こうにも大好きな其の顔は澱み、目が微かに腫れて居た。
「兄上?」
時一の声に、自分が何処に居るのか理解した宗一は、不安に見上げる其の小さな身体を強く抱き締めた。
顔一杯に宗一の体温を知り、苦しいが何も云わなかった。自分より、宗一の方が苦しいのを知ったから。
事情も判らず、何と声を掛けて良いか判らない。出来るのは此れだけだと小さな手を頭に乗せ、優しく撫でた。
「御帰り為さい。」
「今、帰ったで。」
掠れた声に、時一の胸が締め付けられた。
「御疲れの御様子です。御休みに為って下さい。」
笑い、宗一の手を取った。握られた手を其の侭引き、ソファに座らせた。大きな目を更に大きくし、強く何回も瞬きを繰り返し宗一を見続けた。
「兄上?」
「話が、ある。」
初めて聞く訛りの無い声に、顔が引き攣った。俯いた侭の宗一の姿に何も云えず、言葉を待った。
「外に、出ないか。」
「外?」
顔を動かし、窓の外を見たが真暗で外出する時間では無い。
「夜中ですよ?」
行き成り飛び出してみたり散歩に誘ったり、本当に夜中が好きな人だなあ、と完全に意味を穿き違え、首を捻った。
「悪い。云い方が悪かった。」
宗一は笑い、横に座った。
「外国。日本を、出ないか?」
其の言葉に時一は言葉を無くし、彼が今何と云ったのか理解し様と、頭を抑えた。
「外国って…。え?」
理解し様と思えば思う程、混乱する。そんな時一が可愛く思え、宗一は息を吐き、煙草を咥えた。
「独逸だ。」
煙草を持った手を伸ばし、紫煙を揺らす。ゆっくりと動かし、まるで、触診をしている様な。
其の姿を見て、気付いた。宗一が、自分を連れて行こうとする理由を。
時一は深く息を吐き、其の思いをきちんと受け止めた事を教える様に抱き付いた。
「着いてゆきます。何処迄も。」
其の言葉に、宗一は複雑な顔で笑った。




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