歩幅


風が少し冷たい。
もう直ぐ、冬。
傍には貴方が居る。
其れだけで、私の気持は、暖かくなる。
「…早い、ですか?」
後ろを振り向き、止まる。
「いいえ。」
私は、少し早く歩く。
そして、並ぶ。
そうして、暫くすると、又、間隔が開く。
其れを繰り返した。
幾度も。
毎日。
貴方が振り返って私を見る事は、もう無くなった。
私が貴方の歩幅に慣れたのか、貴方が私の歩幅に慣れたのか。
二人で、肩を並べて、同じ道を歩く。
其れが、とても、幸せで、贅沢な事であると感ずる。
視線は合うけれど、指は合わない。
互いに伸ばした指は、寸前で、引かれる。
遠くから、高い笛の音が聞こえた。
そう思ったら、男が一人、着物を乱し、追われていた。
ずれた肩。
嗚呼、そうだ。
貴方は、そんなにも早く、歩ける。
私が貴方に合わせる事は出来ない。
貴方が私に合わせる。
其の事実に、胸が痛んだ。
「大丈夫ですか?御怪我は。」
「もっと。」


もつと、歩ひて下さゐませ、龍太郎樣。
私は、何處へでも付ひて參ります故。
だうぞ、私を、御使ひに成つて。其れが、私の、倖。
肩を並べる、其の日迄。




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